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安倍傀儡の岸田内閣から政権交代を実現するには
中島岳志|2021年10月28日3:22PM
【高市氏の台頭と蚊帳の外だった稲田氏】
今回の総裁選で注目すべきは、高市氏の台頭だろう。安倍元首相が彼女に肩入れしたことで、ネット上では「高市氏支持」の声が目立つようになり、一部では他候補に対する過激なバッシングが巻き起こった。
高市氏は党員票の約2割を獲得した一方、議員票は3割を獲得した(表2参照)。これは自民党支持者よりも、自民党国会議員の中で右傾化が進んでいることを示している。つまり、世の中の趨勢以上に「安倍化」が進んでいるということだ。
高市氏は、安倍元首相の支持を受けたことで、一気に首相候補者としての地位を確立した。一方で近年、性的マイノリティへの理解増進のためのLGBT法案に力を注いだ稲田朋美氏は、安倍元首相の反感を買い、総裁選の蚊帳の外に置かれた。
高市氏への肩入れと稲田氏への冷たい態度。そして、安倍元首相の意向が強く反映された党人事。これを見た若手議員たちは、ポスト獲得のため、安倍元首相への忖度を強化し、服従していくだろう。結果的に自民党内でⅣの傾向がさらに強まり、多様性が失われていく。
自民党は安倍支配から逃れられない体制になっている。安倍政権では二階俊博前幹事長が介在して権力の均衡が見られたが、岸田内閣は安倍一強体制にシフトしている。岸田内閣は安倍内閣以上の安倍内閣なのだ。
【現在の選挙制度下では二大政党制は幻想】
こうした中で、野党は明確にⅡの方向性をとらなければならない。そして、市民に政権交代のリアリティを与え、選択可能な「もう一隻の船」を発進させなければならない。その点で、市民連合が媒介となって立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の野党4党が次期衆議院選挙の共通政策で合意したことは大きな意味がある。ここで示された共通政策は、明確にⅡのヴィジョンでまとまっている。この政策が共有され、選挙での協力体制が動き出したことは画期的だ。
現在、衆議院選挙は小選挙区比例代表並立制を導入している。重要なのは、比例代表制が並立していることだ。3年に一度の参議院選挙も、比例代表制を導入している。こうした選挙制度の下では、明確な二大政党制は誕生せず、共産党や公明党のような政党も、一定程度の議席数を獲得する。中核政党と小政党の連立内閣が不可避である。
このことをしっかりと理解したのが自民党だ。1994年1月、細川護熙内閣で政治改革関連法案が成立し、現行の選挙制度導入が決定すると、自民党は同年、社会党と新党さきがけとの連立内閣の結成に踏み出し、村山富市内閣を成立させた。これ以降、自民党は形を変えながら、連立政治を続けている。
2009年に成立した民主党の鳩山由紀夫内閣も、社民党、国民新党との連立内閣だった。しかし、沖縄の普天間・辺野古問題で社民党を足かせと考え、連立からの離脱を進めた。この背景には、当時の民主党の中に、二大政党制への幻想が強く共有されていたことがある。
1996年の衆議院選挙に社民党から当選し、自社さ連立政権(1994~98年、自民党・日本社会党〈96年から社会民主党〉・新党さきがけ)に加わった保坂展人・世田谷区長は、当時の政策決定が自民3人、社民2人、さきがけ1人という構成でなされ、自民党による多数決が成立しないようになっていたことに注目している(保坂展人・中島岳志『こんな政権なら乗れる』2021年、朝日新書)。野党が政権を奪取するには、野党独自の連立政治のあり方を確立しなければならない。
つまり、立憲民主党が中核政党として政権交代を実現するには、共産党と連立を組む以外に選択肢はない。これは社民党・れいわ新選組とも同様である。二大政党制という幻想とは、明確に決別しなければならない。
衆議院選挙を通じて野党共闘を強化し、安倍傀儡政権に対峙する「もう一隻の船」を浮かべてほしい。
(中島岳志、『週刊金曜日』2021年10月8日号掲載「中島岳志責任編集 もう一隻の船を出すために」から)