東電株主訴訟の裁判官、福島第一原発に初の立ち入り視察
添田孝史|2021年11月5日1:01PM
【集団訴訟は国の1勝3敗に】
株主代表訴訟では、今年2月から7月にかけて専門家や被告への証人尋問も実施され、新事実も明らかになっている。2月に証言した産業技術総合研究所の岡村行信・名誉リサーチャーは、貞観地震(869年)の津波を研究。古い原発の耐震安全性を検討するために旧原子力安全・保安院が設けていた審査会の委員も務めていた。
その岡村氏に2009年、東電社員が面会に来て、津波堆積物調査をすると言うので、「今から調査をしても無駄だと。先に対策をした方がいいですと伝えた」と証言したのだ。政府や国会の事故調報告書、刑事裁判では明らかにされていなかった事実に、法廷内はざわめいた。
東電元幹部の責任を問う刑事訴訟の東京地裁判決(19年9月)が元幹部らを無罪とした理由の一つに「東電の取ってきた本件発電所の安全対策に関する方針や対応について、行政機関や専門家を含め、東京電力の外部からこれを明確に否定したり、再考を促したりする意見が出たという事実も窺われない」ことを挙げていたが、それは誤りだったわけだ。
株主代表訴訟は11月30日に結審し、今年度中に判決が出される見通しだ。11月2日には刑事訴訟の控訴審も始まる。株主代表訴訟と刑事訴訟は、争点がほぼ同じで証拠も同様のものが採用されている。被災住民らは刑事訴訟でも東京高裁裁判官による現場検証を要望しており、株主代表訴訟の成果が影響を与えそうだ。
また、住民らが国と東電に原状回復や被害の救済を求めている集団訴訟では、9月に高松高裁で国や東電の責任を認める判決があった。高裁では国の1勝3敗となり、組織としての国や東電は、事故を予見して防ぐことができたという司法判断が固まりつつある。会社幹部個人の責任を問う株主代表訴訟や刑事訴訟は、どう判断するのかが、注目されている。
(添田孝史・ジャーナリスト、2021年11月5日号)