奨学金の名で若者から収奪する「日本学生支援機構」
「繰り上げ一括請求」の欺瞞を暴く
2021年11月19日9:19PM
「奨学金」といえば本来、向学心に燃えつつ経済的に恵まれぬ若者を支援するものだったはず。しかし、それが今や学生たちを相手に搾取を働き未来を奪う悪徳金融業者と化していた。その実態を追ってきた筆者による入魂の連載第1弾!
Bさん(30代前半)は2011年4月に大学に入り、準備金50万円と月8万円、計434万円の学資を日本学生支援機構(以下、支援機構)に借りた。利息付きの第二種。卒業は15年春。同年10月から35年9月まで20年をかけて毎月約1万9000円の月賦で返還をするという誓約書に署名した。
卒業後は低収入の仕事しかできず、返還は3年ほどで行き詰まる。返還猶予を申請すると認められた。
暮らしに追われながら時間が経ち、19年5月、予想もしなかったことが起きる。約430万円以上を一括で払えと請求されたのだ。「返還期日到来分」の元本が14カ月分の約26万円、そこに将来払う予定の「期日未到来分」が398万円加算されている。さらに利息と延滞金だ。猶予期間中だと思っていたBさんは、驚いて支援機構に問い合わせた。
「返還が猶予されていると思うのですが……」
Bさんによれば、支援機構の職員はこう説明したという。
「猶予は1年だけ。続けて猶予を受けるには手続きが必要だ。Bさんはそれをしていない」
支払期限まで1カ月弱しかない。払わないと年3%の延滞金が約420万円の元本にかかる。借金が年約12万円、月に1万円ずつ増える計算だ。うろたえているうちに月日が流れ、やがて裁判所から呼出状が届いた。訴訟(支払督促)を起こされたのだ。
20年9月のある日、東京地裁6階の小さな法廷で口頭弁論が開かれた。延滞金などが増えて債務額は約448万円になっていた。不安な気持ちで被告席に座るBさんを横目に、裁判官が事務的な口調で和解条項を読み上げた。
「被告は原告に対し、下記合計金額448万円の支払い義務があることを認める。……令和2年10月から22年4月まで毎月末日までに1万9000円を支払うこととする。……分割金の支払いを怠りその額が3万8000円に達したときは、被告は当然に期限の利益を失い……」
5~6分で閉廷した。原告席にいた支援機構代理人の若い男性弁護士は忙しそうに法廷を去った。支援機構と随意契約を結ぶ熊谷綜合法律事務所(東京都千代田区)所属だ。代表者は熊谷信太郎弁護士。かつて吉村洋文弁護士(現大阪府知事)とともにサラ金大手「武富士」(10年に経営破綻)の元代理人をしていた経歴の持ち主だ。
やがてBさんが法廷から出てきた。「仕方ありません」。そう言うと足早に裁判所を後にした。アルバイトがあるのだという。
東京地裁や簡裁に出入りしていると、同様の光景を頻繁に見ることができる。法廷での支援機構の姿勢は強気だ。請求している債権額の減額にはいっさい応じない。裁判所も流れ作業のように追認する。被告が出頭しない裁判も多い。その場合は、何百万円の支払い義務がある――という判決が本人不在のまま言い渡される。
話を聞くと「仕方ありません」といった反応が普通だ。「払わない自分が悪い」と自分を責める人もいる。
これが現代日本では常識的な感覚なのかもしれない。だが、本当にそれでいいのだろうか。