奨学金の名で若者から収奪する「日本学生支援機構」
「繰り上げ一括請求」の欺瞞を暴く
2021年11月19日9:19PM
【なぜ根拠を説明しないのか】
支援機構のホームページを調べてみると奇妙な事実に気がつく。延滞したときに一括請求をする場合があるとは書いているものの、その根拠規定である施行令5条5項の説明がない。
なぜ5条5項について説明しないのか。支援機構の説明はこうだ。
「奨学金事業は日本学生支援機構法の規程に基づいて実施している。一方ホームページではわかりやすい記載を心がけている。関連法令その他の文言をすべてお伝えするとかえって読みづらい」(広報課)
施行令の内容を紹介しないほうが「わかりやすい記載」だという。逆ではないのか。よくわからない説明だ。また、回答の中で支援機構はこんなことも言っている。
「請求や督促の過程で詳細な情報を個別に説明している」
これは事実に反している。先に述べた通り、Bさんの例をはじめ、訴状に記載された5条5項の説明は「支払能力があるにもかかわらず」という施行令5条5項の重要な一節を欠いた不完全なものだ。
「施行令5条5項を紹介したほうがわかりやすいのではないか」
筆者は支援機構広報課の職員に言った。だが結局、ホームページの記載はなんら変わっていない。「5条5項」、特に「支払能力」の説明をしないのは意図的ではないのか、そんな疑いを抱かざるを得ない不自然さだ。
【違法行為を「自白」】
「次の世代の奨学金の原資を確保する観点から、厳しい対応をせざるを得ません」
13年当時の回答で、支援機構は一括請求を乱発する理由についてそう述べた。原資を確保するための一括請求――本当にそうだろうか。回収した返還金の流れを調べるとこの説明は怪しい。
原資確保が目的なら利用者から受け取った分割金はまず元本に充当するはずだ。ところが実際は違う。法的手続きの費用、利息、延滞金が先で、元本の回収は最後という方針を頑なにとっている(取材に対して支援機構も認めた)。そして延滞金収入は支援機構の会計処理上、経常収益に計上される。しかも雑収入。つまり儲けだ。
支援機構によれば、繰り上げ一括請求の件数(「期限の利益剥奪通知」件数)は17年度が1万3412件(約285億円)、18年度1万4830件(約312億円)、19年度1万6964件(約342億円)と年々増加。一方、延滞金収入は、17年度約40億円、18年度約38億8000万円、19年度約39億円で、予算計上額を毎年6億円から9億円も上回るという熱の入れ方だ。
また延滞債権の回収業務を受注するのは日立キャピタル債権回収株式会社とエム・ユー・フロンティア債権回収株式会社。19年度は約12万件の回収委託に対して約60億5800万円を回収、約4億1400万円の手数料収入を得ている。
一括請求の狙いは「原資」ではなく「延滞金」のうまみにあるのかもしれない。
さて、今回あらためて支援機構に尋ねた。支払能力の審査をしているのか否か。1カ月待って届いた回答はこうだ。
「返還期限猶予や減額返還猶予制度申請が確認できた返還者の方等については、一括請求の実施対象から除くことにより、返還が困難な方への一括請求を回避しています」
わかりにくい表現だが、支払能力無視の貸しはがしをしていることをこんども「自白」した。法令を踏みにじって若者から収奪する日本学生支援機構。サラ金でも銀行でもないその姿は、まさに「日の丸ヤミ金」だ。(つづく)
(三宅勝久・ジャーナリスト、2021年4月2日号)