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奨学金返済、一括請求のルーツは?
若者から収奪する「日本学生支援機構」
2021年12月20日6:50PM
生活に苦しむ元奨学生をさらなる絶望の淵へと追い込む「一括請求」はいつから始まったのか。辿っていくうち、奇妙な実態が浮かび上がってきた……。
昨年10月22日、東京地裁で日本学生支援機構による取り立て訴訟を傍聴していた筆者は、閉廷後、支援機構のK弁護士と被告の男性Aさん(27歳)がこんな会話を交わすのを耳にして驚いた。
Aさん お話があるのですが。
K弁護士 なんでしょう。
A カードローンの借金があって困っているんです。相談に乗ってもらえないでしょうか。
K いいですよ。どのくらい借金があるの?
A 300万円くらい。ジャックスとレイク……。払えなくて待ってもらっている。
K 破産か任意整理でしょうね。
A 費用はどのくらい?
K 日弁連の基準ですと……。
債権者の代理人が債務者の別の借金の相談に乗れば、弁護士法25条が禁止する双方代理に問われかねない。先刻の法廷で、K弁護士は債権者・支援機構の代理人としてAさんに約640万円の弁済を求め、5万円を11年間の分割払いで返す内容の和解をしたばかりなのだ。
結論から言えば、Aさんはその後、多重債務問題に詳しい別の弁護士に委任し、「奨学金ローン」も含めて破産することにした。負債が計1000万円もあり、払うのは困難だと弁護士は判断した。
もしK弁護士に債務整理を委任していたら、破産しようとしてもK氏の事情から奨学金ローンだけは除外せざるを得ず、生活再建が困難になった可能性が高い。
K弁護士の〝軽さ〟にあきれながら、筆者はふと気がついた。これは「繰り上げ一括請求」をめぐる支援機構のウソを浮き彫りにする光景ではないか――。
【支払督促で「死にたい」】
自分を訴えた相手の代理人にAさんが借金の相談をしたのは、それほどせっぱつまっていたからだ。
Aさんは幼い頃に両親が離婚し母子家庭に育った。家計は厳しく、頻繁に電気やガスが止まり、給食費も滞納した。
四国の実家を出て関西の私立大学に進学したのが2011年。奨学金ローンから、入学時に20万円、月額12万円×4年間の計596万円を借りた。学費は年間約100万円、下宿代や生活費を入れるとそれだけでは足りず、親戚の援助やアルバイト、消費者金融の借金で補った。
15年3月に卒業、奨学金ローンの返済は、利息を含めた610万円を同年10月から毎月2万6000円ずつ20年かけて返すつもりで「誓約書」に署名した。苦しい社会人生活の始まりだった。
卒業後、Aさんは会社に就職したが、労働条件が悪く短期間で辞めた。好きな写真で身を立てようと自営業を始めたが挫折、アルバイトや派遣労働をしながら糊口をしのいだ。カードローンや消費者金融から矢の催促を受けた。奨学金ローンを返す余裕はなかった。
卒業から4年が過ぎた19年、Aさんは再び会社に就職した。これで借金を返せると安堵したのも束の間、支援機構からの請求書に愕然とする。約640万円を全額返せという。「死にたい」気持ちが頭をよぎった。
さらに1年後、裁判所から「支払督促」という法的手続書類が届く。ほぼ相手の言いなりに次の条件で和解した。
▼640万円の支払義務確認(元本596万円、延滞金33万円、利息16万円)
▼月5万円ずつ11年間の分割払い。分割金は延滞金↓利息↓元本の順に充当
▼二度延滞した場合は「期限の利益」を喪失し、残額を一度に返す。その場合、年3%の延滞金が残元本につく
毎月5万円もの金を払っていけるかは内心不安だった。今の会社にいつまでいられるかも不透明だ。しかし他になす術は見つからなかった。