近畿財務局の職員、赤木俊夫さん（当時54歳）が２０１７年３月に自殺したのは、森友学園（大阪市）へ破格の安価で国有地を売却した契約に関する公文書の改竄を強要された精神的苦痛によるものだとして、妻の赤木雅子さんが国に１億７００万円の損害賠償を求めた訴訟の進行協議（非公開）が12月15日に大阪地裁で開かれた。この席で国は訴えを「認諾」（原告の請求をすべて認める）して全額を支払うと表明。認諾は確定判決の効力を持っており、これで裁判は終結することになった。

　雅子さんは昨年３月、「夫が追いつめられた真相が知りたい」と、国と改竄当時の理財局長だった佐川宣寿氏を別個に提訴。同学園の小学校建設予定地（国有地）の大幅値引きに絡む公文書から、名誉校長だった安倍晋三元首相夫人の名を消すなどの改竄経緯を俊夫さんが綴った「赤木ファイル」の提出を求めた。当初、その「存否」の回答も拒否した財務省は今年６月にファイルを開示したが、改竄を本省職員に指示した人物名などは伏せた。雅子さん側は佐川氏ら関係者を証人尋問して真相を追及しようとしたが、「認諾」で頓挫した。

　突然の幕引きに雅子さんは会見で「お金を払えば済む問題ではないです。私は夫がなぜ死ななければならなかったのかを知りたい」と怒りと失望を表した。
　国はこれまで雅子さんに訴えの棄却を求めて争っていたが、15日の進行協議では冒頭に国側の代理人が立ち上がり「認諾します」と発言。別室で協議した裁判官が戻ってきて認諾を認めると伝え、雅子さんらの抗議も受け付けなかったという。代理人の生越照幸弁護士は「不意打ちだ。国は改竄問題が追及されることを避けるために訴訟を終わらせた」と批判した。

　国は認諾理由について、俊夫さんが理財局からの改竄指示への対応や情報公開請求の対応業務に忙殺されて精神疾患を発症し、自死したと説明。鈴木俊一財務大臣は15日夕刻、財務省で報道陣に対し「いたずらに訴訟を長引かせるのは適切ではなく、決裁文書の改竄という重大な行為が介在している事案の性質などに鑑み、認諾するという判断に至った」と説明した。

【背後に政権側の意図か？】

　裁判自体は原告の全面勝訴だ。だが雅子さんは「惨敗したような、負けに負けたような気持ちです。自分が一番苦しんだ改竄作業をさせた財務局、財務省に卑怯なやり方で今日、こんな形で裁判を終わらされてしまい、夫は何と言うだろうかと考えています。悔しくて仕方がない」と話した。　　
　森友学園問題の火付け役だった大阪府豊中市の市議会議員、木村真さんは「国有地売却の情報公開を求めた私の場合は、売買契約の文書を黒塗りだらけにされて起こした訴訟で10万円程度しか請求しなかったことから国がさっさと訴えを認めて、こちらは上訴できなかった。さすがに１億円ならそう簡単には認めないとは思いましたが、隠蔽のためには安い金だったのか。赤木ファイルが裁判に出たことで佐川氏の関与もかなりわかってきましたし、国もこれ以上続けるともっとまずい事実が出ると思ったはず」と話す。

　さらに木村さんは「認諾が岸田文雄首相の直接指示なのかはわかりませんが、首相は『再調査をしない』と雅子さんの求めを拒否している。財務省は世論を敵に回しても政権が守ってくれると判断したのでしょう」と見る。
　雅子さんは17日に財務省に認諾への抗議文を提出した。裁判は他に佐川氏に５５０万円の損害賠償を求めた訴訟と、大阪地検の任意捜査報告書などの不開示を不当として提訴した訴訟があり、法廷での闘いはまだ続く。
　国への提訴（20年３月）の際、代理人の松丸正弁護士は「財務省が真相究明を免れるためにさっさと訴えを認める認諾をさせないために請求額を高くした。雅子さんはお金のために提訴したのではありません」と説明していた。だが、隠蔽のためなら巨額の税金も財務省にとって「はした金」だったのだろうか。

（粟野仁雄・ジャーナリスト, ２０１２年１２月２４日号）