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落合恵子さんが語る絵本の魅力 
「年齢やセクシュアリティ、国や言語からさえも自由なのが絵本」

2021年12月23日4:49PM

落合恵子(おちあい けいこ)・作家。子どもの本の専門書店「クレヨンハウス」 主宰。1945年生まれ。社会構造的に「声が小さな側」の声をテーマにした作品が多い。総合育児雑誌『月刊クーヨン』、オーガニックマガジン『いいね』発行人も務める。元『週刊金曜日』編集委員。(撮影/伊田浩之)

1976年に設立された「クレヨンハウス」は、確かな品ぞろえで人気を博し続けている。主宰の落合恵子さんに絵本の魅力について聞いた。

──絵本の読者層が広がっているそうですね。孫や子どもへ贈るためではなく、自分のために買っていく大人も多いと聞きます。なぜ、絵本の人気が高まっているのでしょうか。

 クレヨンハウスは、メディア等で紹介される時、「子どもの本」の専門店といわれることがあります。45年前、クレヨンハウスをオープンする時、個人的な問いがひとつありました。

 それは「絵本は誰のもの? どの年代のもの?」です。

 わたしは、子どもから始まるけれど、絵本に年齢制限はない、と考えていました。
 一方、絵本が何期目かの「ブーム」と呼ばれる季節を迎えたとき……実際、多くの「ブーム」はメディアが火をつける場合が多かったようですが……、「大人のための絵本」と位置付けられるものが出版されました。

 絵本が子どもから始まって年齢制限なし、と年代から自由になりつつあるときに、「大人のための」と、年齢を規定することはないだろう、と、私はここでも、少々の異議あり、でした。

 といったわけで、年齢からも、セクシュアリティからも、「絵を読む」という意味ではそれぞれの国や社会の言語からも、自由なものが絵本だと思います。

「人は人生で三度絵本と出会う」とおっしゃったのはノンフィクション作家の柳田邦男さんです。子ども時代にまず出会い、親になって、子どもに読むために再会し、そして年を重ねて、自分のために出会う、という意味だと思います。

 私は日々絵本に接していますが、ここ十数年、ある年代になってから、自分のための絵本を探しに来られるかたが増えています。子ども時代に潤沢に絵本に出会えなかった……私もその世代ですが……、子どもに読んでやった時は、疲れていて「早く眠っておくれ」(笑)と祈るような思いで読み、自分のほうが半分眠っていた……とか。

 そうしていま、70代や80代を迎え、自分のための絵本とじっくり向かい合えるようになった、とおっしゃるかたがいます。一冊でいい、絵本を描きたいというかたもいます。

【物語への違和感も】
──45年前、絵本というか、「子どもの本の専門店」は珍しかったのではないでしょうか。


 本当に少なかったです。いまは全国で120店ぐらいです。 私がはじめた理由ですか? 小さいころから「本屋さん、やりたい」と言っていた、と大人になってから教えてくれた人がいました。

 1945年生まれの私にとって、子ども時代の主なメディアといえば、本とラジオ。新聞は大人が読むもので。で、タンスの上に置かれていたラジオもどちらかというと、大人のものでした。戦争で別れ別れになってしまったひとを探す「尋ね人の時間です」というナレーションで始まる番組などを大人と一緒に聴いていました。

 そして、絵本がありました。

 当時の、少なくとも私の身の回りにあった絵本といえば、おひめさまが出てくるものか、偉人伝か、「こうすればいい子になる」といういわゆる躾(しつけ)絵本か。あるいは、冒険するのは男の子、女の子はそれを見ているか、応援する……というジェンダー色の濃いもので、少なくとも私にとっては、居心地いいものではなかったです。

「偉人」と一緒にご飯食べたくなかったし、おひめさまの物語の多くは、自力で人生を切り開くのではなく、おうじさまと出逢わないと、ハッピーエンディングを迎えられないといった案配で。どれもが、ちょっと不自然でした。ですから、もっぱら冒険ものか、図鑑が好きでした。

 両親が揃っていて、子どもがいてという、いわゆるスタンダードな家族像も、父親のいないわたしにはちょっと違うな、と感じました。「うちみたい家があってもいいのに」と。それらに夢中な時と、ちょっと違うなという思いと、相反する思いが、私を本屋さんに誘ってくれました。アメ玉をいただいたこともあるし、ハタキをかけられたことも。で、一日中立ち読みしてもいい本屋さんになりたい、と思ったのかもしれません。

(聞き手・まとめ/伊田浩之・編集部、2021年12月24日号)

※落合さんが語る絵本の魅力や楽しみ方、落合さんが薦める絵本20冊は、12月24日に発売される『週刊金曜日』12月24日・2022年1月7日合併号に掲載される。

この『週刊金曜日』の特集は「一生読み続けたい絵本」。「チリとチリリ」シリーズ(アリス館)などで知られる絵本作家・どいかやさんのインタビューや、絵本に出合える場所として、絵本古書店「トムズボックス」の土井章史店長のインタビュー、千葉県浦安市立図書館の紹介、浦安図書館が薦める絵本20冊が掲載されている。累計200万部を突破した『ノラネコぐんだん』(白泉社)が大ヒットした背景を探る記事もあり、24ページにわたって絵本を特集している。

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