奨学金、違法回収に加担する法律家と「日本学生支援機構」の関係とは
三宅勝久|2021年12月24日12:41PM
支払能力がない利用者には使えない「繰り上げ一括請求」が堂々と行なわれるのはなぜか。支援機構の会議議事録を調べると、違法を見逃す法律家の姿が浮かぶ。
日本学生支援機構法施行令5条5項(旧3項、その後4項)の定めにより「支払能力」がある長期延滞者にしか使えないはずの繰り上げ一括請求を、金のない人に対して適用するという、支援機構による回収の違法性を裏付ける証拠がまた一つ見つかった。
2003年12月に文部科学省高等教育局が作成した「独立行政法人日本学生支援機構法施行令案内閣法制局説明資料」と題する資料が、情報公開請求によって6月14日に開示された。文科省が内閣法制局に施行例案の点検を求めた際の資料だ。この中の「学資金の返還の期限等(第五条関連)」と題した項目に、第5条5項の趣旨を説明した部分がある。
「規定の内容――③第3項において支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められる場合には期限の利益を喪失することを定めている」
「支払能力があるにもかかわらず」と明記されている。金がない場合は長期に延滞したとしても繰り上げて全額請求することはできない。5条5項がそういう趣旨であることに疑いの余地はない。どんな事情であれ、分割金を払わなかったら全額返済を求められる普通のローンとの違いは明確だ。
だが、支援機構は現在「支払能力」の審査をせず、一定期間連絡がなかったというだけで5条5項を発動、問答無用で何百万円もの一括請求をしている。施行令を完全に無視している。
法令軽視の姿勢は、貸し付けの際に支援機構が使っている「(貸与奨学金)確認書兼個人信用情報の取扱いに関する同意書」(以下「確認書」)という文書にも表れている。「奨学金の返還にかかる事項」と題してこんな記載がある。
「(8)本人が債務(貸与を受けた総額、利子、延滞金及び督促手続費用)の返還を延滞し、機構から書面により期限の利益を失う旨の通知を受けてもなお延滞を解消しない場合は、債務全額について期限の利益を失い、直ちに債務全額を返還しなければなりません」
繰り上げ一括請求をすることがある旨、利用者に「確認」を求めた部分だが、具体的にどういうときに期限の利益を喪失するのか、一括請求されるのかという肝心の「喪失条件」の記載がない。「支払能力があるにもかかわらず」と書くべきなのに、それがない。
これでは「支援機構はいつでも好きな時に全額請求できる」という白紙委任状に同意を求めているようなものだ。
【「法令」という言葉なし】
この「確認書」は法令を踏まえて作ったのか。支援機構広報課に尋ねると次の答えが返ってきた。
「裏面の『奨学金の貸与に係る事項』『奨学金の返還に係る事項』などは、当機構の奨学金の貸与及び返還に関する条件・約定やそれらに関する諸手続といった重要事項について、本人及びその親権者にその内容を十分ご理解いただいた上で、奨学金に申し込んでいただくために記載しているものです。
なお、契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して、相手方が承諾したときに成立する(民法522条1項)ため、本人が奨学金を申し込むにあたり、貸与及び返還の条件・約定や諸手続など、申し込む内容を明らかにすることは必要であると理解しております」
長々とした回答の中に「法令」という言葉はなかった。一方で「契約」「締結」「約定」という表現が出てくる。まるで民間の貸金業者のようだ。もっとも、合法的な貸金業者であればこれほど杜撰な契約書は作らないだろう。
新たな疑問が湧いてくる。債権回収業務における法的なチェックをどう行なっているのか。