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“日の丸ヤミ金”奨学金 
私はこうして一括請求を撃退した!(中)

三宅勝久|2022年1月18日6:57PM

奨学金ローン返済をめぐる日本学生支援機構との訴訟に臨むべく裁判所に出向いた利用者を、予想外の展開が待ち受けていた。「一括請求」撃退報告の第2弾。

支援機構から訴えられたAさんが裁判所に提出した準備書面。一括請求は無効だと主張している。(撮影/三宅勝久)

 裁判の第1回期日に指定された2021年7月8日、小雨がぱらつく中、Aさんは知人の車で、広島市安佐北区にある可部簡易裁判所に向かった。訴えられるのは生まれて初めてだ。緊張していた。

 裁判所に到着すると、裁判官が驚いた様子で言った。

「どうやって来たのですか」

 梅雨前線が接近し、豪雨に最大級の警戒をするよう呼びかける気象警報が発令されていることを、Aさんはこの時になって初めて知った。電車が運休となったため、原告である日本学生支援機構(以下、支援機構)の代理人が出頭できなくなり、期日の延期が決まっていたのだ。

「原告から連絡すると聞いていたのですが」

 裁判官の言葉に、Aさんは支援機構から携帯電話に何度か着信があったことを思い出した。てっきり分割和解の話だろうと思って応答しなかったのだが、実はこの日の期日を取り消す旨の連絡だったらしい。

【裁判官が興味を示す】

 拍子抜けした気分になったAさんに、裁判官が事件のことを尋ねてきた。

「原告(支援機構)の請求に対して争いたい考えはありますか」

 訴状に記載された請求金額は約120万円。内訳はこうだ。

1 主たる請求 合計金119万円
(1)金10万円(返還期日経過元本小計額)
(2)金109万円(一括繰上げ返還すべき返還期日未到来元本小計額)

(筆者注・数字は概数、附帯請求は省略)

 ちょうどいい機会だとAさんは道中考えてきたことを説明した。

「争うかどうかはまだはっきりと決めていないのですが、原告に確かめたいことがあるのです……」

 裁判官は丁寧な態度で話を聞いていた。Aさんは続けた。

「請求されている金額のうち100万円くらい(約109万円)は日本学生支援機構法施行令5条5項に基づいた繰り上げ一括請求です。しかし、5条5項には『支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められるとき』と規定されているのです。私には支払能力はありません。そもそも支援機構は私の支払能力を調べていないのです。納得のいく説明をしてほしい」

 裁判官が興味を示した。施行令5条5項に「支払能力」の記述があるということを、Aさんの説明で初めて知った様子だった。無理もない。支援機構から提出された支払督促申立書や訴状、関連証拠のどれ一つをとっても、施行令5条5項の正確な条文が記載されたものはない。「支払能力」を飛ばして次のように書いているだけだ。

〈独立行政法人日本学生支援機構法施行令第5条第5項により、割賦金の返還を怠った者に対しては、債権者が指摘する期日までに約定返還期日未到来分を含む返還未済額の全部を一括して返還させることができる定めであるところ……〉(支払督促申立書より)

 ひとしきり話を聞くと、裁判官は穏やかに言った。

「じゃ、今のお考えを準備書面にして、次回の期日までに出してください」

 裁判官に話を聞いてもらったことでAさんは気持ちが軽くなった。「もしかしたら、こちらの言い分が通じるかもしれない」と元気が出た。支援機構のひどい取り立てに困っている人たちの役に立てたら嬉しい――そんなことも考えながら来た道を引き返した。

 帰宅すると、すぐに準備書面の構想を練り始めた。夜になり、予報通りの猛烈な大雨となった。

 改めて指定された裁判期日までは2カ月ほど時間があった。裁判の書面を作るのは初めてだった。慣れない作業に手間取ったが、何度か書き直してようやく準備書面(左の写真)ができあがった。

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