“日の丸ヤミ金”奨学金
私はこうして一括請求を撃退した!(下)
三宅勝久|2022年2月9日7:32PM
【被告の勝訴的和解で終結】
不安と緊張を抱えて臨んだ第1回口頭弁論だったが、蓋を開けると圧倒的にAさんに有利な形で終わった。あっけないほど簡単に危機を脱した。安堵しながらも複雑な気持ちになった。独立行政法人という公的機関が、よって立つべき法令に違反する行為を堂々とやる。返還猶予を認めて訴訟を取り下げるとは、繰り上げ一括請求を取り下げるのと同じ意味である。支払能力無視、施行令無視で一括請求を乱発することの違法性を自認している証拠ではないか。
まさかと思うような実態を目の当たりにする一方で、裁判所の存在が頼もしく感じられた。
裁判所から帰宅したAさんは、さっそく、所得証明書や入院・治療の証明書類を取り寄せ、支援機構に対して返還猶予申請を行なった。認められないわけがない。そう信じて結論を待った。
約1カ月後の10月中旬、支援機構中国四国支部からようやく通知が届く。
〈返還猶予のお申出を頂きまして、ありがとうございます。……お申出頂きました希望期間(2020年3月~2022年2月)について、事前審査の結果、「経済困難」事由にて猶予処理を行うにあたり、書類不備がないことを確認しました。(中略)(支払督促費用8083円の)入金を確認でき次第、可部簡易裁判所への申立は取り下げ致します〉
違法な一括請求に基づいて裁判(支払督促)を起こし、形勢不利となるや取り下げるということをしながら、手続費用を払えというのは面白くなかった。だが、「訴訟取り下げ」を確実に勝ち取ることを優先した。また、返還期限がきた約10万円については法的措置をとられてもやむを得ないと自分に言い聞かせ、受け入れた。
21年10月22日、支援機構は訴えの取下書を可部簡裁に提出した。Aさんは同意し、訴訟は終結した。Aさんの勝訴的和解だった。
施行令を無視した一括請求を行なっていることについてどう考えているのか。事情を聞くため筆者は昨年12月、広島市の支援機構中国四国支部を訪れた。対応した男性職員は「顧問弁護士の意見を聞いてやっている……広報課に聞いてほしい」と詳しくは語らなかった。そこで広報課に質問した。施行令の「支払能力があるにもかかわらず」という文言を訴状などに記載しないのはなぜか――。
回答は締切を過ぎた1月19日に届いた。(つづく)
(注)期限の利益=契約などで定めた期限が到来するまで弁済(支払い)をしなくてよいという民法上の規定。
(三宅勝久・ジャーナリスト、2022年1月28日号)