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レイシストが「武装ツイート」でヘイトクライム示唆
差別禁止の法律の必要性浮き彫りに
石橋学|2022年2月28日9:07PM
神奈川県内で外国人排斥のヘイトスピーチを繰り返してきたレイシスト(人種差別主義者)が包丁を手に「武装なう(武装した)」とツイッターに投稿し、ヘイトクライム(差別を動機にした犯罪)の恐怖をマイノリティに突き付けている。在日コリアン集住地区である川崎市川崎区桜本の地名をあげ、「抗争したい」ともツイート。地域住民は警察に警備を要請したり、襲撃に備えて自衛策を講じたり、差別の深刻な被害が拡大している。
ヘイトクライムの実行を示唆する「武装抗争宣言」をしているのは、澤村阿万氏。差別者集団「日の丸街宣倶楽部」の主要メンバーで、街中のデモでハーケンクロイツ旗を振りかざすネオナチとして知られる有門大輔氏が代表を務めるヘイト団体「外国人犯罪追放運動」の幹部でもある。「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の後継団体で桜井誠氏が党首を名乗る極右政治団体「日本第一党」の党員だったこともあった。
日の丸街宣倶楽部が川崎駅前で行なうヘイト街宣に参加したり、有門氏らと川崎市役所前でマイクを握ったりしてきた。川崎市で制定されたヘイトスピーチ規制条例を目の敵にし、「日本は外国人に乗っ取られる」「川崎市は外国人に牛耳られている」というデマをふりまき、「日本人が自由にものを言えなくなる」と外国人への敵意もあらわに排斥をあおるヘイトスピーチを繰り返してきた。
問題のツイートは2月8日深夜、柳刃包丁3本を握り締めた写真に「武装なう」というコメントを付けて投稿された。ツイッター上で非難が高まり、110番通報やツイッター社への削除要請が相次いだ。『神奈川新聞』で実名で報道されたが、澤村氏は削除せず、5日後の13日には中国人の蔑称を用いながら「しなのデモ隊の脇腹に突っ込みたい。桜本でしなの右翼と抗争したい」と投稿。マイノリティ集住地区を名指しし、脅迫的行為をエスカレートさせた。
【レイシストらの続く悪意】
京浜工業地帯に隣接する桜本地区は、在日コリアンら外国ルーツの市民が数多く暮らす。2015年、16年と在日コリアンの殺害を呼び掛けるレイシスト集団のデモに襲撃され、生存の危機にさらされるという被害がヘイトスピーチ解消法や川崎市条例の根拠になった。逆恨みした差別主義者の攻撃は続き、20年には桜本を象徴する、差別をなくすための公的施設「川崎市ふれあい館」に対して在日コリアンの虐殺宣言と爆破予告が相次いだ。21年には館長で、ヘイトスピーチの被害を訴え続ける在日3世の崔江以子さんに殺意を示す脅迫文が送りつけられた。
マイノリティを見せしめにするようなヘイトクライムが相次ぎ、地域住民の恐怖が引き続いている中、澤村氏のツイートは追い打ちをかけた。2月15日、川崎市の人権施策を審議する有識者会議のヒアリングに応じた崔さんは「私たちのまちでヘイトスピーチだけでなくヘイトクライムまでが予告されている。どうか助けてください」と訴えた。襲撃に備えてシャツの下に「防刃ベスト」を装着する生活を強いられてきたが、職場の同僚からは両腕を覆う「防刃アームカバー」と携帯用の警棒を手渡されたという。
桜本で「共に生きるまちづくり」に取り組んできた社会福祉法人青丘社からも「桜本を標的とした挑発と脅迫的発信は看過できない。多くの市民が桜本のまちを守るためにご支援、ご協力を」と訴えるSOSが発信されている。
20日には中止を求める声を無視して日の丸街宣倶楽部のヘイト街宣が川崎駅前で強行された。澤村氏は現れなかったが、代表の渡辺賢一氏はメンバーの発言に責任を取ろうとせず、放置することでヘイトクライムを肯定するメッセージを発した。澤村氏は21日未明、今度はナタ包丁を手に「武装なう」とツイートした。レイシストたちの底なしの悪意と、とどまるところを知らない蛮行は、差別そのものを禁止する法律の必要性を改めて浮き彫りにしている。
(石橋学・『神奈川新聞』川崎総局編集委員、2022年2月25日号)