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“日の丸ヤミ金”奨学金 
「一括請求」、謎の根拠とは

三宅勝久|2022年3月10日6:59PM

全面黒塗りの「法的措置実施計画書」。そこまで非開示にしたがる理由は何なのか。(撮影/三宅勝久)

【反省なし?の手紙】

 一方、一括請求と訴訟が取り下げとなり、返還猶予が認められて落ち着きを取り戻したAさんのところに昨年11月、支援機構から手紙が届く。題して「奨学金返還期限猶予額について」。返還猶予に関する事務的な通知だが、次の一文にAさんは目を疑った。

「一定期間督促後も返還がない場合、人的保証選択者は、連帯保証人・保証人への督促があり、それでも返還がない場合は、法的措置へ移行することとなります。機関保証選択者は、期限の利益を失い保証機関が本機構に対し代位弁済することとなりますが、その後は保証機関が代位弁済額の全額について一括返還を求め、これに応じない場合は、保証機関は法的手続きをとることとなります」

「支払能力」を不問で5条5項を発動したことの是非が争点となり、訴えを取り下げたばかりなのに、またもや同様の貸しはがしを予告している。「あきれました。反省はないのか。違法な一括請求に苦しんでいる人はたくさんいるはずです。もっと大きな問題になってほしい」とAさんは言う。

 ここまでくると確信犯的に5条5項違反の回収をしているのではないかと疑わざるを得ない。そこで気になるのが「法的処理実施計画」なる文書の存在だ(連載第3回=昨年6月4日号)。繰り上げ一括請求に関するいっさいの文書を開示するよう情報公開請求したところ、支援機構が特定した唯一の文書だ。そして、ほぼ全面を黒塗りにした。「法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるという。

 支援機構は独立行政法人という公的機関である。「利益」を「害する」というのは理が通らないではないかと、筆者は昨年6月、行政不服審査法に基づいて審査請求を行なった。この手続きの中で支援機構から「理由説明書」と題する釈明書が出された。昨年8月のことだ。

【「悪意ある者」とは誰か】

 支援機構の「理由説明書」によれば、黒塗り部分には「法的処理の実施計画を策定するに当たっての背景事情や対象者の大枠に関する考え方(方針)」や「具体的な法的処理の対象者の属性、類型、見込件数、実施時期」が記載されているという。そして、それらを非開示にした理由についてはこう述べている。

「仮に、これらが公にされると、奨学金返還を延滞している者において機構の動向を推認できることとなり、悪意ある者が機構による督促から身を隠すこと、資産を秘匿すること及び延滞状況を放置することが助長される事態を招来することとなる」

「悪意ある者」「督促から身を隠す」「資産を秘匿する」――「奨学金」の利用者らに対する敵意すら感じさせる言い分に驚いた。同時に首をひねりたくなった。

 支援機構が想定する「悪意ある者」とは、財産があるのに払わない者ということだろう。そんな利用者が本当にいるのか疑問だが、その場合、逃げるにしても財産を隠すにしても限界がある。住民票を照会すれば住所はわかる。収入や財産があるのだから訴訟を起こして差し押さえればよい。

 連絡がつかないというのは、ほぼ間違いなく困窮しているからだ。その場合、強引に取り立てることはできない。施行令5条5項は「支払能力」がない者への一括請求を認めていない。

 支援機構の展開する「悪意ある者」論に、筆者はこう反論した。「回収方針」が公表されても支援機構が言う事態が起きる可能性は低い。むしろ違法不当な回収行為が助長されるおそれがある――。

 第三者の諮問機関として審査を行なったのは情報公開・個人情報保護審査会第5部会だ。委員は3人。元最高検察庁検事・藤谷俊之、公認会計士・泉本小夜子、慶應義塾大学大学院法務研究科教授・磯部哲の各氏である。はたして昨年11月、次の答申を出す。

「下記の4文書(筆者注・18~21年度の各法的処理実施計画)につき、その一部を不開示とした決定は、妥当である。(以下略)」

 黒塗り部分を開示すると、所在や財産を隠す者が出てくるから「債権回収の実効性を著しく低下させ、次世代の奨学金原資の確保に支障をきたすとともに、奨学金貸与事業の健全性及び持続性を阻害する事態を招来する」という。

 情報公開を進めれば組織の健全性を損なう。そう言っているに等しい奇妙な答申だった。(つづく)

(注)日本学生支援機構法施行令5条5項「学資貸与金の貸与を受けた者が、支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められるときは、前各項の規定にかかわらず、その者は、機構の請求に基づき、その指定する日までに返還未済額の全部を返還しなければならない」

(三宅勝久・ジャーナリスト、2022年2月25日号)

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