名張毒ぶどう酒事件、名古屋高裁は再審請求を今回も認めず
粟野仁雄|2022年3月22日7:25PM
1961年3月、三重県名張市での住民懇親会で農薬入りぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」の裁判のやり直しは今回も認められなかった。元死刑囚の奥西勝さん(2015年に89歳で病死)の妹、岡美代子さん(92歳)が、再審請求を認めない名古屋高裁に申し立てた異議審で3月3日、同高裁の鹿野伸二裁判長は異議を棄却した。
同事件ではこれまで10回の再審請求が行なわれた。第7次請求審では05年に同高裁の刑事1部が再審開始決定を出したが、刑事2部が取り消した。現在の第10次請求審で、同高裁の刑事1部は17年12月に「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない」と棄却し、岡さんが異議を申し立てている。
異議審では、検察が開示した被害者らの供述調書に、ぶどう酒瓶の封緘紙が懇親会開始前に「瓶の口に巻かれていた」とする供述があることについて、弁護団が「(毒物混入時に封緘紙が)切れてその場に落ちた」とする奥西さんの自白と異なるため確定判決は誤りだと指摘。さらに、封緘紙の糊から製造時と異なる成分が検出されたとの鑑定を新証拠として「真犯人が毒を入れた後、封緘紙を貼り直した」と主張していた。だが鹿野裁判長は封緘紙が「(住民が)必ずしも関心を持って観察する対象ではない」とし、それが二度貼りされていた事実は認められないとして退けた。
岡さんは「裁判長・裁判官に怒りをもって『何故に』と問い、抗議したいです。私の命ある限り、再審無罪、えん罪を晴らして兄の名誉を回復するために頑張りたい」などのコメントを出した。鈴木泉弁護団長は「封緘紙の糊が洗濯糊などの別の成分だったことは最大の無実の証拠。裁判所が鑑定人の証人尋問もしないのは許せない」と怒る。弁護団は8日、300ページに及ぶ反論文書を最高裁に提出して特別抗告した。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、2022年3月18日号)