東京五輪の謳い文句
「ジェンダー平等」は欺瞞
山秋真|2022年3月31日8:41PM
「感動の物語」に使われる
日本スポーツとジェンダー学会の初代理事長を務めた井谷惠子氏は、「スポーツとは、自分の身体との対話・野外活動のようなレクリエーション・散歩や健康づくりなど生活に欠かせない身体活動・命を守る泳ぎや身を守る技能などを含む豊かな身体運動だ」と解説。メディア報道は競技スポーツ中心のため、五輪でスポーツ報道が増えるほど「スポーツ=競技スポーツ=学校教科としての体育」という誤解が広まることや、メディア報道のスポーツやアスリートの礼賛は政治や思惑から人々の目をそらせることを問題視した。
2013年からオリンピックに反対するアーティストのいちむらみさこ氏は、感染症拡大で開催に批判の声も多かった東京五輪は「頑張っているアスリートを批判しないで」という文脈で遂行されたと振り返る。特に、闘病を経て見事に復活したという女性アスリートの「感動的な物語」を作りだして「これでもオリンピックを批判するつもりか」というかたちで使われたと指摘。その過程を記録し、五輪スポンサー企業に起用された女性アスリートの表象を分析した写真研究者の小林美香氏は、「感染症の拡大で人間の身体の脆弱さを人々が自覚するなか、強く美しい身体を称揚して日本社会の再起を託す東京五輪は、その欺瞞を女性のイメージを使って覆い隠そうとした」と語った。
セクシュアルマイノリティの人権活動を長年続ける堀江有里氏は、性の多様性を象徴する虹色の衣装を着た女性歌手が「君が代」という天皇を讃える歌を東京五輪の開会式で歌ったことを危惧。五輪を利用する人と反対する人の分断も起きて状況は難しいが「多様な人々とつながる可能性を信じ、抵抗の道筋を考え続けたい」と話した。
(山秋真・ライター、22年2月18日号)