“日の丸ヤミ金”奨学金
若者から収奪する「日本学生支援機構」
三宅勝久|2022年4月7日6:31PM
日本学生支援機構による〝違法回収〟の実態が明らかになりつつある。利用者への「最終通知」内容が情報公開請求で発覚。そしてついに国会でも取り上げられた。
〈重要/必ずお読みください!/今回お送りした「支払督促申立予告」は、あなたへの最終通知です。〉(傍線は原文ママ)
A4判の紙に赤色の大文字をまじえてそんな文句が書かれている。作成者は闇金融でもなければ貸金業者でもない。独立行政法人日本学生支援機構(以下、支援機構)である。特殊詐欺と疑われてもやむを得ないほど威圧感のある取り立て文書を、奨学金ローンの返還困難に陥った利用者や保証人に対して送りつけていたのだ。
「最終通知」は情報公開請求に対して支援機構が開示したものだが、その意味は重大だ。違法性が疑われる繰り上げ一括請求を実行するために作成された「違法回収の証拠」だからだ。
奨学金ローンは20年以内に月賦または年賦などで返還する仕組みだ。それを、返済が滞ると将来払う予定のものまで前倒しで一括弁済をと迫る。200万円であろうが300万円であろうが、耳を揃えて即座に払えというのが繰り上げ一括請求である。根拠は日本学生支援機構法施行令5条5項とされる。
さて、最終通知をさらに読むと、赤色や下線、傍点で強調した大文字でこうある。
〈予告書の内容をお読みいただき、一括返還が困難なときは、必ず「○月末日までに」日本学生支援機構に連絡し、分割返還や返還期限猶予手続等について相談してください。/連絡がないときは、裁判所に支払督促申立を行います。〉(傍線、傍点は原文ママ)
【差出人は元武富士代理人】
強い調子の文面の中に「予告書」という言葉が出てくる。「返還未済奨学金の一括返還請求(支払督促申立予告)」という文書のことだ。やはり情報公開請求で開示された。最終通知といっしょに送っているらしい。
その予告書(A4判)を見ると、こちらは平凡な事務文書の体裁で赤色や大文字は使われていないものの、やはり内容はおどろおどろしい。
〈あなたは、日本学生支援機構(旧日本育英会)からの貸与を受けた奨学金の返還について、再三の督促を受けながら、長期にわたり返還がなされていません。/ついては、独立行政法人日本学生支援機構法施行令(日本育英会奨学規程)により、下記の返還未済額の全部を、下記の返還期限までに一括して返還されますよう請求します。/もし、この期限までに返還されず、また、然るべき対応もなされないときは、やむなく返還未済額の全部、および内訳記載以後の延滞金について、上記規程に定める返還強制の手続きをとることになりますので、ご承知おきください。
(略)
返還未済額○円(内訳は下記のとおり)/返還期限○年○月○日
(略)
1 返還期日が到来し、滞納となっている額 ○円
2 約定返還期日未到来であるが、奨学規程により繰上げ返還すべき額 ○円〉(傍線は原文ママ)
差出人は支援機構の吉岡知哉理事長。その下には「顧問弁護士・熊谷信太郎」の名があり、文面に迫力を与えている。熊谷氏はサラ金最大手・武富士(2010年に経営破綻)元代理人の経歴を持つ支援機構の看板弁護士だ。
「奨学金」の利用者や保証人がこれらの文書を受け取れば、ほとんどの人は「滞納した方が悪い。全額払わなければいけない」と思い、動揺するにちがいない。
だが、本連載でたびたび指摘してきたとおり、支援機構の一括請求には違法性が疑われる。施行令5条5項には「支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められるとき」にのみ一括請求できるとあるのに、じっさいは利用者の支払能力を調べることすらせず、一括請求を乱発している。払えない人から容赦なく貸しはがしている。
この問題意識をもって最終通知や予告書をみれば強い違和感を覚える。一括請求は「支払能力がある」場合にしかできない旨明記した施行令の内容が、文書のどこにも説明されていない。
支援機構は意図的に施行令を歪めているのではないか。そう疑いたくなる。