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教科書採択に関するアンケートの回答黒塗り訴訟、「公開しないのは違法」
奈良地裁
鈴木敏夫|2022年4月27日2:21PM
奈良市の小学校教科書の採択に関する市民アンケートの情報公開について、内容がほとんど黒塗りで開示されなかったとして、奈良市の市民団体の女性が不開示の取り消しを求めて市を訴えていた裁判で、奈良地裁の寺本佳子裁判長(若原央子裁判官代読)は4月7日、原告の主張を全面的に認め、「不開示部分を公開しないとしたのは違法」として市に取り消しを命じる判決を言い渡した。
「子どもと教科書奈良ネット21」(奈良ネット)事務局の奥野つね子さんたちは毎年、教科書採択に関わる資料の開示を求めてきた。奈良市教育委員会(市教委)はそれまでと異なり、2019年の小学校教科書採択の展示会で市民が提出したアンケート回答の感想欄などを突然、「不開示処分」にし、黒塗りにして出してきた。
奥野さんによる「不服申請」を受けて、市教委は、奈良市情報公開審査会に諮問。審査会は「不開示処分は妥当」と答申した。
「不開示」にされたままでは、保護者や地域住民の意見が教科書採択に反映されない恐れがあり、教科書採択の過程は透明化されるべきであるとして、奈良ネットは奥野さんを原告として、「不開示の取り消し」を求めて昨年1月、奈良地裁に提訴した。さらに「教科書採択に“黒塗り”はいらない奈良市民の会」を立ち上げ、ニュースを発行したり、集会や裁判傍聴に取り組んだりしてきた。
市教委側は「不開示」の理由として、(1)筆跡で個人が特定できる。(2)感想文は、個人の人格と密接に関連するもので、開示することは、個人の思想・信条の自由を侵す。(3)調査研究のための意見を聞くもので、公開を前提に回答するとなると率直な意見が聞けなくなる恐れがある――と主張していた。
今回の判決は、(1)について、参加した場所、日付、筆跡から個人を識別するのは、「同様の特徴を有する個人が他に存在する可能性は十分考えられる」などをあげ、特定個人の識別はできないとして、市教委側の主張を退けた。
その一方、裁判長は、「筆跡で個人が特定されると言うなら、アンケート内容をワープロで転写したらどうか」との和解案を提示したが、市側は「受け入れられない」と回答していた。
(2)については、感想文の記入は「閲覧した教科書が公立学校で使用されることの適否を教育的観点から述べるもので、そこに現れた考え方自体が、個人の人格と密接に関連するものであるとはいい難い」と認定。これまで公開してきたことで感想文が減るといった「有意な変化は認められない」ため、公開による萎縮効果は認めなかった。また、(3)についてもアンケートは「調査・研究」と関係しないとして、市側の主張をことごとく退けた。
2023年度は、小学校の教科書採択の時期にあたる。全国的には、裁判長が提案した「アンケートを打ち直して全文公開する」方法をとっている自治体や、教育委員会の会議で展示会での住民意見を傍聴者にも配布する自治体が増えている。
【文科省は一層の改善を】
そうした全国的状況から見れば、奈良市の今回のような対応は、行政としてお粗末と言わざるをえない。
ただ、アンケート結果を公開しない自治体もまだまだ多いのは事実だ。その意味で、今回の判決は重要であり、教科書採択過程の透明化を求める人たちにとっては大きな励ましとなるだろう。
文部科学省は同省の公式サイトで教科書採択について「国民により開かれたものにしていくこと」「保護者等の意見がよりよく反映されるよう」と掲げている。
そうであるならば、文科省は、まだまだ遅れている「選定委員に保護者代表を入れること」はもとより、法律で義務づけている展示会などを含め、一層の改善を行なうべきである。
(鈴木敏夫・「子どもと教科書全国ネット21」事務局長、2022年4月22日号)
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