『北海道新聞』記者の逮捕受け労組らが批判
「知る権利脅かす」
臺宏士|2022年4月27日2:30PM
国立大学法人・旭川医科大学の学長の不祥事を取材中の『北海道新聞(道新)』記者が昨年6月、建造物侵入容疑で逮捕された事件について、新聞労連や道新労組など6団体が4月13日に東京都内で記者会見。「大学職員が常人逮捕した行為、警察が記者を48時間にわたり拘束した行為は、いずれも過剰な対応だった。報道の自由を侵害する行為であり、広く市民の(知る権利など)基本的人権を脅かすことにつながりかねないと危惧する」との共同アピールを発表した。
逮捕された記者は、昨年春に入社し、同年6月22日、新型コロナウイルス患者受け入れをめぐる不適切な発言や職員へのパワハラなどで責任が問われた吉田晃敏学長(当時=今年3月辞任)の解任を検討する学長選考会議を取材するため同大学の校舎内に立ち入り、スマートフォンを使って扉の隙間から会議室内の音声を録音していたところを同大学職員により現行犯逮捕された。北海道警旭川東署は記者と、取材を指揮していた現場責任者(キャップ)の2人を今年3月16日に旭川区検察庁へ書類送検し、区検は同31日に不起訴とした。区検は、不起訴の理由について明らかにしていない。
道新労組の安藤健中央執行委員長は「取材行為で現場に入っており、正当な理由を持った業務と考えていた。建造物侵入罪は正当な理由があれば違法とならないとしており(組合は)正当な理由に当たると主張してきた。不起訴処分と決まったのは良かった」と述べた。
『道新』は4月12日付朝刊で「組織取材のしかたに反省すべき点があった」として、小林亨常務取締役編集局長を役員報酬減額10分の3(1カ月)に、当時の編集局次長・地方担当、旭川支社報道部長、同報道部次長とキャップの4人を厳重注意としたと報じた。会見で安藤委員長は、逮捕された記者も小林局長からの口頭指導となったことを公表。会社側はその内容について「今後も頑張って仕事をしてほしいという意味合いを込めて指導した」と説明したという。
【問われる『道新』の姿勢】
小林局長は『道新』4月1日付朝刊「不起訴に当たって」で反省点として「大学構内の立ち入り禁止の通知が現場の記者たちに徹底されず、取材経験の少ない記者を建物に入らせ」たことを挙げた。同紙が昨年7月7日付朝刊記事で挙げた問題点は「(取材の)4日前(6月18日)の学長選考会議で大学側が(校舎内への立ち入り取材に)抗議したことを逮捕された記者は知らなかった」「(同紙の)『記者の指針』で、記者の倫理上、無断録音は原則しないと定めているが指導が徹底されなかった」「職員に見つかった際に道新記者と名乗り、取材目的を告げなかった」ことなどだ。
『道新』は同社労組とは異なり、これまで記者の行為が正当な業務だったと社会に訴えてこなかったほか、小林局長自身が「建物の中に深く入って盗聴することは、建造物侵入罪が成立するなかでも悪質との法的な解釈もある」(9月14日付朝刊「私の新聞評者懇談会」)と述べたように、行為をいわば「推定有罪」(安藤委員長)とする考え方が色濃かった。逮捕を明確に批判したのは「不起訴に当たって」で小林局長が「常人逮捕は過剰な対応で、遺憾と言わざるをえません」としたのが初めてだ。
新聞労連の吉永磨美中央執行委員長は会見で「会社の初期対応には相当問題があったと認識している。(記事で)『無断録音(盗聴)』と表現したが、記者の行為を違法な扱いにするのは非常に問題で、そうした報道自体が問われるべきだ。会社としての反省はどうなっているのか。『処分』についても疑問と違和感がある」と述べた。
小林局長は「不起訴に当たって」で「メディアに対する社会の目が厳しさを増す中で、私たちの取り組み方も問われます」「今後も読者や社会の皆さまの信頼を得られるように全力で取材し、報道していく所存です」としたが、そう書く前にするべきだったのは、第三者による会社の事件対応の検証や、開かれた記者会見の場で質問に答えることではなかったのか。
(臺宏士・ライター、2022年4月22日号)