【タグ】瀬戸内法
改正瀬戸内法が施行
「瀬戸内海はきれいになりすぎたのか」
平野次郎|2022年4月28日6:47PM
改正された「瀬戸内海環境保全特別措置法」(瀬戸内法)が4月1日に施行された。瀬戸内海では近年、工場排水などの水質規制により海水中の窒素やリンなどの栄養塩類が不足し、そのため漁獲量が減少しているとされる。それに対応すべく、下水処理場などから放出する栄養塩類を増やすことで海水の栄養塩類を管理する制度を導入した改正法が昨年6月に国会で可決・成立していた。
だが、漁獲量減の要因は栄養塩類不足だけなのか。そうした問題意識のもと、同海沿岸約15の自然保護団体によるネットワーク「環瀬戸内海会議」が4月3日、オンライン講座「瀬戸内海は本当にきれいになったのか? 改正瀬戸内法を問う」を開催した。
講座では、最初に同会議副代表の末田一秀さんが講演。まず現状について次のように報告した。
瀬戸内海は1960年代の高度成長期に沿岸部の埋め立てによる干潟や藻場の消滅、工業地の集積による工場排水や家庭汚水の流入増などで水質が急激に悪化。窒素やリンなどの栄養塩類の増加による赤潮の発生が相次いだ。このため73年に「瀬戸内海環境保全臨時措置法」、78年に瀬戸内法が制定され、有機汚濁物指標の化学的酸素要求量(COD)による総量規制、窒素やリンなど指定物質の削減などの排水規制が導入された。
この結果、同海全体ではCOD濃度は横ばいで水質が改善されたとはいえないものの、供給量では窒素が約8割に減少、リンも半減するなど貧栄養化が進んだ。一方、漁獲量は80年代半ばから急激に減り、90年代後半には養殖ノリの色落ちやイカナゴの漁獲量減などの漁業被害が深刻化した。
瀬戸内法は2015年の改正で規制だけではなく、「豊かな海」にするために藻場や干潟を保全する、生物多様性を確保するなどの理念が盛り込まれた。一方、附則に「施行後5年を目途として栄養塩類の管理の在り方について検討」と書き加えられた。
この附則を受けて昨年成立した改正瀬戸内法に「栄養塩類管理制度」が導入された。これによって沿岸の府県知事は対象海域を指定して水質の目標値や測定方法などの計画を策定し、下水処理場などから基準の範囲内で栄養塩類を放出して海水の濃度管理を図ることになった。
【「自然を管理」への懐疑】
では瀬戸内海は本当に「きれいになりすぎた」のか。末田さんは講演で「海域によって汚濁濃度が違うし、季節によって変動があるので簡単には言えない」とし、改正法について「湾や灘ごとにどういう環境像を描くのか、漁民や市民など関係者の立場が違う中でどのようにして合意を得るのか、課題は多い」と指摘した。
同会議共同代表の湯浅一郎さんは、広島県呉市周辺で海岸生物の種類数が60年代後半からの10年間で激減したことや、希少生物のカブトガニやスナメリクジラが干潟消滅や海砂採取などの影響で皆無に近い状況になっている実態を紹介。こうした背景に生態系の乱れや食物連鎖の異変があると指摘した。たとえば近年、大阪湾や播磨灘で秋から冬にかけて大量発生する大型珪藻類のタラシオシーラは、栄養塩類を奪うため養殖ノリの色落ちが発生するといわれるほか、動物プランクトンの餌にならないために、食物連鎖へとつながらないという。
もう一つの要因として地球温暖化により海水の最低水温が10度を切らなくなったこともある。養殖ノリの色落ちの要因となるほか、以前は冬を越せなかったクラゲが越冬することで異常繁殖し、動物性プランクトンを大量に摂食するため、イカナゴなどの生育に影響を与えることもありうるという。
「長年にわたる開発によって食物連鎖が断たれたことで壊れた生態系のバランスを回復させるためには、何もせずに時間をかけて自然に任せるしかない」と湯浅さんは述べ、自然を管理することに懐疑的だ。その対案として、自然の力を活かした「磯浜復元」を提案した。
(平野次郎・フリーライター、2022年4月15日号)
【タグ】瀬戸内法