宮城県石巻市「燃料不明」のバイオマス発電所
「虚偽説明」に住民怒り
満田夏花|2022年4月28日7:08PM
宮城県石巻市須江地区で進むバイオマス発電所建設事業が物議を醸している。出力10万2750キロワットで液体燃料を使うものとしては国内最大規模だ。しかし、近くに小学校や保育所があり、大気汚染や燃料用タンクローリーなどの交通量増大の懸念から、地域住民は猛反対。地元自治体も事業への懸念を示す。
問題はそれだけではない。環境影響評価が終了し、今年8月にも建設がはじまる予定にもかかわらず、燃料として何を使うのかが明らかではないのだ。
事業を進めるのは、バイオマス発電の企画・調査などを手掛けるG-bioイニシアティブ(東京都千代田区)。同社は、2017年2月、パーム油を燃料として、同事業の再エネFIT(固定価格買取制度)の認定を取得した。
その後、G-bio社は住民への説明で、マメ科植物であるポンガミアをモザンビークで栽培し、燃料となる油を生産すると説明した。「ポンガミアは非可食であるため、食料との競合も生じません。乾燥地や荒廃地でも育つため、パーム油のような森林破壊の問題は発生しない。次世代型の燃料です」。県条例に基づく環境影響評価も、パーム油ではなくポンガミア油を使う前提で実施した。
ただ、G-bio社はパーム油を使うとしたFIT認定申請はそのままにし、変更申請は行なっていない。「パーム油を使うとして申請を受け付けています。もし、事業者がポンガミア油で変更申請を出したとしたら、その時点でFIT認定取り消しということになるでしょう。ポンガミア油はFITでは認められていないからです」と経済産業省の担当者は述べている。
【「驚きの二枚舌だ」】
一方、G-bio社は、2021年7月に開催された住民説明会で、事業に対する疑問の声をあげる住民に対して「ポンガミア油はまもなくFITで認められるはずです」と自信満々に断言した。
結局、バイオマス発電の持続可能性を審議する経済産業省のワーキンググループで、ポンガミアは認められなかった。農産物の主産物は、非可食であっても土地や水などを通じて、食料との競合を引き起こすという判断だ。
住民たちは今年3月28日、宮城県および経済産業省に対して、この事業の環境影響評価やり直しおよびFIT認定の取り消しを求めて要望書を提出した。
「事業者は、経済産業省に対してはパーム油を使うと言い、県や住民に対してはポンガミアを使うと説明し続けた。驚きの二枚舌だ」と「須江地区保護者の会」の我妻久美子代表は憤る。
「結局パーム油を使うとしたら、事業者は住民に対して虚偽の説明をしたことになる」
地域住民を裏切り続けるG-bio社の姿勢にもかかわらず、経済産業省も宮城県も、「止める権限はない」と逃げ腰だ。
同社は宮城県角田市で、パーム油を燃料とする出力4万1100キロワットの発電事業を計画し、その後、大手旅行会社「エイチ・アイ・エス」(HIS)の関連会社に譲渡した。
この事業に関しては、多くの環境NGOが、パーム油生産のための農園開発で森林破壊が生じているとし、国際的にも批判の声があがった。HISは発電所建設を強行したが、燃料調達が難航し、発電所は休止状態だ。
石巻市須江地区の事業に関しても、事業の採算性を考えれば、G-bioがFIT認定を優先させ、パーム油を使う可能性が高い。とすれば年間17万トン以上のパーム油が必要となる。これは日本のパーム油輸入量(2019年77万トン)の2割以上にものぼる。
住民の生活を脅かし、熱帯林を破壊する――。とんでもない発電所の建設が、私たちの電力料金をあてにして進められようとしているのだ。
(満田夏花・国際環境NGO「FoE Japan」理事、事務局長、2022年4月15日号)