首相へのヤジ排除、北海道警に賠償命じる判決
「表現の自由を侵害」と断罪
徃住嘉文|2022年5月17日8:13PM
街頭演説中の安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばして排除された男女2人が北海道(北海道警察)を相手に起こした国家賠償請求訴訟で3月25日、札幌地裁(廣瀬孝裁判長)は排除の違法性を認め、慰謝料88万円を支払うよう道に命じる判決を言い渡した。
判決によると、参議院議員選挙期間中の2019年7月15日、JR札幌駅前で演説した安倍首相に「安倍やめろ」とヤジを飛ばしたソーシャルワーカーの大杉雅栄さん(34歳)と、増税反対の声を上げた団体職員の桃井希生さん(26歳)が、多数の警察官により後方に排除された。この際、警察官が首相応援の声は規制せず批判者だけ排除したのは公平中正を欠き、憲法21条の表現の自由の侵害だとして前記2人が道に慰謝料など計660万円の損害賠償を求めていた。
裁判で道警は、自民党支持者らから2人への怒号が上がり犯罪発生の危険があったため、警察官職務執行法と警察法に基づき2人を避難させたなどと主張。だが判決は、証拠として提出された現場の動画に怒号がないことなどから道警の主張を不自然と指摘。危険があるなら聴衆に警告し、間に割って入るべきなのに2人を強制的に移動させたとして、これを退けた。
そのうえで判決は、ヤジはいささか上品さに欠けるが公共的・政治的事項に関する表現の自由は特に重要な憲法上の権利だと判示。警察官が2人に対して「演説しているから邪魔しちゃだめ」などと発言していることから、表現の自由を侵害したと認定した。
大杉さんは「筋が通らないのに何事も強引に押し通す安倍首相にヤジを飛ばした。すると同様に、筋が通らないのに強引に排除にかかる警官がたくさん出てきた。判決はそうした安倍的なものにノーと言った」、桃井さんは「私たちだけの問題じゃない。排除されている人たちにとっての救いとなる判決だ」と高く評価した。
(徃住嘉文・報道人、2022年4月1日号)