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軍拡よりも社会保障の充実を
〈編集委員コラム 風速計〉
宇都宮健児

2022年7月1日7:00AM

 

 政府は6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)を閣議決定した。この骨太の方針では、防衛費を国内総生産(GDP)比2%程度に増額することを念頭に置き、防衛力を5年以内に抜本的に強化する方針が明記されている。

「骨太の方針」は防衛力強化の理由に、ロシアのウクライナ侵攻やインド太平洋地域での力による一方的な現状変更で安全保障環境が厳しさを増していることなどを挙げるとともに、北大西洋条約機構(NATO)諸国が国防予算を対GDP比2%以上とする基準をめざしていることを例示している。

 2022年度の防衛費はGDP比1%程度の約5兆4000億円である。これをGDP比2%に増やした場合、防衛費は約11兆円となる。防衛費をGDP比2%に増やせば日本は世界第3位の軍事大国となる。

 6月3日付の『東京新聞』では、防衛費の増額分を教育や年金、医療など暮らしのために振り向ければ、どのようなことができるのかを紹介している。

 子育て・教育に使えば、大学授業料の無償化は1・8兆円、児童手当の高校までの延長(所得制限撤廃)は1兆円、小・中学校の給食無償化は4386億円で実現できる。大学の授業料無償化、児童手当の拡充、給食無償化が合わせて3兆円台で実現できることになる。

 また、年金生活者のために使うとすれば、4051万人の年金受給者全員に対し月1万円、年12万円を上乗せして支給する場合、4兆8612億円で実現できる。医療に使うとすれば、公的保険医療の自己負担(1~3割)をゼロにする場合、5兆1837億円で実現できる、としている。

 ロシアのウクライナ侵略や米中対立に乗じた軍拡方針は、かえってアジア太平洋地域における軍拡競争と緊張の激化を招き、安全保障環境の悪化を招く可能性が大である。

 戦争放棄を定めた憲法9条を有する日本としては、これまで以上にアジア太平洋地域における緊張緩和と平和的環境をつくるための外交に力を注ぐべきであるし、防衛方針としては専守防衛に徹すべきである。そしてコロナ禍や物価高で、貧困や格差が拡大し生活困窮者が増え続けている現状を考えれば、防衛費増額分は子育て・教育、年金、医療など社会保障の充実にこそ回すべきである。

(『週刊金曜日』2022年6月24日号)

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