汚染水海洋放出めぐり東電がきれいな海を「約束できない」発言?
牧内昇平|2022年7月22日8:36PM
東京電力福島第一原発の敷地内にたまる汚染水(処理水)をめぐる話し合いの場で、海洋放出に反対する市民たちに対して東電の担当者が問題発言をしていたことが分かった。「きれいな海を残してください」という市民の訴えに対して、「約束できない」と答えたという。東電は「意味の取り違えがあった」と釈明しているが、はたしてそうか。
複数の関係者への取材によると、問題発言があったのは、5月13日に東京都内で行なわれた東電と市民グループ「これ以上海を汚すな!市民会議」との協議。冒頭の写真撮影の後、メディアを退出させた話し合いの最中、市民側として参加した女性がこう話した。
「私には2人の娘がいます。福島県は自然に恵まれたとてもきれいなところです。そんな福島が大好きです。どうかお願いです。私の娘たちに福島のきれいな海を残してあげてください。残してくれることはできませんか?」
女性の問いかけに応えたのは、東電原子力・立地本部の井口誠一原子力センター所長。以下のようなやりとりがあった。
女性「海に放射性物質を流してほしくないんですが、私はさっき、娘たちにきれいな海を残してくださいとお願いしましたが、その約束はしていただけるんですか?」
東電「私たちの企業として、そこの部分を約束するまではできないと思っています」
女性「お願いしているんですけど、そのお願いは聞いていただけないんですか?」
東電「『お受けいたします』としか言えないですね」
この「約束できない」発言に対して、市民側は「原発事故の責任を省みない発言だ」と抗議。5月25日、東電側に文書で発言の撤回と謝罪を求めた。東電側は6月10日付で以下を文書で回答した。
〈5月13日の対話で「約束できない」と発言したのは、ALPS処理水の海洋放出の見直しに対して「約束できない」と発言したもので、海を汚さないことに対しての発言ではありません。当社は、国の規制基準や各種法令等を確実に遵守することで、海を汚さないよう努めてまいります。〉
意図的? ずれた回答
前述の通り、市民側は「きれいな海を残して」とくり返し訴え、それへの約束を求めた。会話の流れをふり返れば、明確だ。仮に東電側が回答した通り、井口氏の発言が〈海洋放出の見直しに対して「約束できない」と発言したもの〉であったならば、井口氏は市民の訴えに対して意図的にずれた回答をしたのか。あるいは、市民の切実な声をいい加減に聞き、見当違いの回答をした、ということになる。不適切な対応だったと言わざるを得ない。
東電・福島第一廃炉推進カンパニーの広報担当者は筆者の取材に対し、「意味の取り違えはあったのかもしれませんが、当社としては海洋放出の見直しの約束を求められたと理解しました。当社としても海を汚すつもりはありませんし、市民の方々も含めて、関係者の皆様のご理解を得るために真摯に取り組んでまいります」と話した。「発言の撤回や謝罪はしないのか」と聞いたが、回答はなかった。
市民側の不信感は募るばかりだ。5月13日の話し合いに参加した「これ以上海を汚すな!市民会議」の織田千代・共同代表(福島県いわき市在住)はこう指摘している。
「市民と直接向き合う場であんなことを平気で言えるなんて気がしれない、というのが実感です。市民からの声に対して、心のこもらない言い逃れやその場しのぎの発言ばかりです。原発事故を起こした企業としての責任を感じているとは思えない。東電の信頼性は地に落ちているとしか言えません」
汚染水の海洋放出をめぐっては、福島県と大熊、双葉両町が設備工事の着工を了承するかが目下の焦点になっている。市民の不信を募らせる東電の対応ぶりも検討材料にすべきだろう。
(牧内昇平・フリー記者、2022年7月22日号)