「同性愛は依存症」
神道政治連盟議員懇談会で差別的冊子配布
松岡宗嗣|2022年7月22日8:42PM
自民党議員の大多数が参加する「神道政治連盟国会議員懇談会」で6月13日、ある冊子が配布された。そこには、性的マイノリティに関する事実に基づかない差別的な考えが書き連ねられていた。
「同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症」「(同性愛などは)回復治療や宗教的信仰によって変化する」「世界には同性愛や性同一性障害から脱した多くの元LGBTの人たちがいる」「LGBTの自殺率が高いのは、社会の差別が原因ではなく、LGBTの人自身の悩みが自殺につながる」
配布されたのは同懇談会の総会。全国各地の神社が参加する宗教法人「神社本庁」を母体とする政治団体「神道政治連盟」、その趣旨に賛同する国会議員による議員連盟だ。故・安倍晋三元首相が会長を務めていた。タイトルは「同性愛と同性婚の真相を知る」。弘前学院大学教授でキリスト教学者の楊尚眞氏による講演録をまとめた内容だ。
同性愛は精神障害や依存症で、異性愛へと矯正・治療すべきといった言説は、同性愛だけでなく障害や依存症に関する差別や偏見をも利用した幾重にも悪質な考え方だと言える。WHO(世界保健機関)は1990年に同性愛を精神疾患から除外しており、精神障害や依存症ではないことは国際的にも明らかだ。異性愛へと矯正しようとする「転向療法」は人権侵害であり、法律によって禁止されている国もある。
自殺の問題についても、性的マイノリティの自死の割合が高いことは認めながら、その原因が本人にあるかのような言説は到底看過できない。性的マイノリティ当事者と非当事者の自死未遂の経験を比べると、同性愛者や両性愛者等が約6倍、トランスジェンダーは約10倍高いという調査結果もある。他にもさまざまな調査から、性的マイノリティは非当事者よりもメンタル不調の割合が高いことも明らかになっている。これらは「本人のせい」などではなく、社会に根強い差別や偏見が残っているからだ。
【背景にある構造的な問題】
筆者が6月29日にこの冊子の配布について「Yahoo!ニュース」に記事を掲載したところ、前述した冊子中の記述は明らかな差別言説だとして多数の批判の声が寄せられた。
7月4日には、性的マイノリティの当事者や支援者による抗議デモが自民党本部前で行なわれた。主催者側によると約700人が参加し「LGBTQ差別をやめろ」「冊子の内容を撤回しろ」といった声があげられた。同日、性的マイノリティ関連の市民団体の全国組織であるLGBT法連合会は、冊子について「筆舌に尽くし難い、目を覆わんばかりの差別そのもの」と声明を発表した。7日には抗議デモの発起人らが自民党本部に「要望書」を提出。冊子の内容を否定することや、党内での性的マイノリティに対する適切な認識を広げることなどを求めた。
他にも、自民党に対して冊子の内容の否定、差別解消の姿勢を示すことや、冊子を回収することを求める「Change.org」の署名には約3万9000筆(7月12日時点)が集まっている。
しかし、神道政治連盟や自民党側は差別言説を広めたことに対して何の釈明も行なっていない。メディアの取材に対し神道政治連盟側は「差別の目的はない」と言い逃れ(『女性自身』ウェブサイト記事7月3日付)、自民党議員も多くは「不回答」(同7月5日付)だ。
参院選では自民党が大勝。昨年の「LGBT理解増進法案」の国会提出見送りの際、法案に反対し、トランスジェンダー蔑視発言で批判を集めた山谷えり子氏をはじめ、神道政治連盟が支援する候補者が当選している。性的マイノリティの権利保障は一向に進まず、むしろこのような自民党議員による差別発言が繰り返されている。その背景には、自民党内保守派とその背後にいる宗教団体という根深い構造的な問題があることを、今回の冊子配布問題は示している。
(松岡宗嗣・ライター、2022年7月22日号)