霊感商法との親和性
〈編集委員コラム 風速計〉
田中優子
2022年7月29日7:00AM
2021年9月17日、全国霊感商法対策弁護士連絡会が、衆議院議員・安倍晋三氏宛に送った文書を見ることができた。そこではこの連絡会が1987年に約300名の弁護士により結成されたことが書かれている。活動を始めて35年の歴史をもつ。
この連絡会は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による霊感商法被害の救済と根絶のために作られた。国会議員や地方議員がこの団体の集会や式典に出席し、祝辞を述べることによって「お墨付き」を与え、霊感商法がさらに広がることを懸念し、注意を呼びかけてきたのだ。
ところでこの文書が安倍氏宛に送られたのは、2021年9月12日に、安倍氏が旧統一教会のフロント組織である天宙平和連合主催「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」と称するWeb集会で基調演説をおこない、教祖である韓鶴子総裁(故・文鮮明教祖の妻)を始めとする幹部・関係者に対し「敬意を表します」と述べたからであった。
連絡会は19年にも国会議員に対して、会への参加や賛同メッセージを送るようなことをしないよう求めている。「金銭的搾取」と「家庭の破壊」をもたらす「反社会的団体」である、と表現し、政治家によるお墨付きは反社会的な活動をさらに容易にするものだ、という懸念が示されたのである。そのような警告があったにもかかわらず安倍氏が講演と賛辞を送ったのであるから、並々ならぬ関係があったのだろう。教団から高額の講演料や票の取りまとめを示されたのかもしれないが、そのような利益供与の関係だけではないような気がしている。森友学園が設立を目指した「安倍晋三記念小学校」の事件でもそうだったが、安倍氏に超現実的なものとの親和性を感じるのだ。
憲法は個人の信教の自由を保障するとともに、宗教団体側からも国の機関の側からも、政教癒着を禁じている。それは、人知と合理性を超えた力が自分に何らかの利害をもたらすとなった途端、思考を停止して熱狂する人々が現れるからである。権力を求める者は常にその熱狂の中にあり、他の熱狂を自分の方に向けたい。論理的な筋道は断たれ思考が停止し、超現実的な団結と排除が始まる。そういう社会でいいのか?
思考は人間にとって厄介で面倒なものなのかもしれない。しかしそれを続ける努力の中にしか、希望はない。
(2022年7月22日号)