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若者から収奪する「日本学生支援機構」 “秘密指令書” とは

三宅勝久・ジャーナリスト|2022年7月30日7:00AM

「分別の利益」裁判の尋問

 その裁判とは「奨学金ローン」の保証人が支援機構に「過払い金」返還を求めた、いわゆる「分別の利益」(注2)訴訟である。単純保証人(連帯保証人ではない通常の保証人)の場合、ほかに連帯保証人がいれば最大で債務額の2分の1の支払い義務しか負わない。にもかかわらず支援機構は残債務全額を単純保証人に請求した。保証人は払わねばならないと誤信して言われるがままに支払った。後日、「分別の利益」のことを知り、払いすぎた金を返してほしいと訴えた。しかし支援機構は返さない――という事件だ。

 この事件の本人尋問が、4月26日午後、東京地裁であり、原告の一人である男性Aさん(75歳)が証言台に立った。

 年金暮らしのAさんは、1999年から2002年にかけて姪の保証人になった。そして18年10月初め、元金全額と延滞金など計約920万円の一括弁済を求める請求書を支援機構から受け取る。

 Aさんの姪は高校と大学の学費として当時の日本育英会に3件780万円を借りたが、一切返済をしなかった。連帯保証人の父親も返していない。Aさんと姪一家とは没交渉で、なぜ払わなかったのか、正確な事情はわからない。

 920万円の請求書の冒頭には「理事長・遠藤勝裕/顧問弁護士・熊谷信太郎」の文字があった。また、赤と黒が混じった大文字が躍るヤミ金まがいの文書も同封されていた。

〈重要/必ずお読みください!/最終通知〉

 支払い期限は1カ月足らず後。この請求書を受け取った時の心境について、Aさんは法廷でこう証言した。

「どうしても払わなきゃいけないのかなと……脅し文句だなあと思いました」

 請求書には「強制執行」という文句もある。放置すれば、いま住んでいる家を差し押さえられるかもしれない。そんな不安に駆られ、もはやどうにもならないとAさんは思った。そして老後の生活費として貯めていた資金を崩して一括で払う。

 裁判の争点は「分別の利益」の解釈にあった。Aさんが払った920万円のうち半分が不当利得にあたるかどうか。これについては先行する札幌地裁・高裁の裁判で、弁済金のうち2分の1を超す額の返還を命じる判決が確定しており「全額弁済は有効」とする支援機構の主張が認められる余地はほとんどない。

(注2)「分別の利益」に関する民法の条文は以下の通り。
第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
第456条 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第427条の規定を適用する。(本誌2021年7月2日号など参照)。

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