自治体「夜間シェルター」ゼロの厳しい現実
猛暑で命の危険も
野宿者らが東京・渋谷区に申し入れ
渡部睦美・編集部|2022年8月4日12:44PM
「災害級」の猛暑からどう身を守るのか。健康や命が危ぶまれる暑さが続く中、東京・渋谷区の野宿者当事者団体「ねる会議」が熱帯夜や日中に野宿者が避難できる場所(クールシェルター)を求めて7月21日、同区に申し入れ書を出した。だが取材でわかったのは、夜間のクールシェルターがある東京の自治体はゼロということ。日中のクールシェルターも自治体ごとに対応にばらつきがあり、安心して過ごせる場所は少ない。
「今日は風があるからまだマシ。テントの中だと温度が外より高くなるので風もない熱帯夜は命の危険を感じる時がある。そういう時は仕方なくテントの外に寝るけれど、誰かに暴力を振るわれるんじゃないかとの心配の中で眠ることになる。どっちにしても命にかかわる心配をしなくちゃいけない」
7月下旬のある夜、渋谷区で野宿生活をする男性はこう話した。
申し入れ書によると、近年、夏に体調を壊して倒れ、救急搬送される野宿者が少なくない。7月4日未明には上野の野宿者が熱中症で死亡した(支援団体・ひとさじの会)。「ねる会議」の小川てつオさんは「日差しが強い日は夜もアスファルトに熱がこもっていて、暑くて眠れないとの声もたくさんある。すでに自分も含め体調を崩している人たちもいる」と話した。
睡眠と熱中症の関係については、環境省の「熱中症 環境保健マニュアル2022」で「夏の睡眠不足は、熱中症のリスクを高くする可能性があります」「夜間の睡眠環境を整え、しっかり眠ることが大切です」と説明されている。
しかし、涼しいまちづくりを目指す「暑熱適応のまちづくり研究会」によると、「睡眠環境を整えるためにシェルターなどの具体的な対策を、夜間も行なっているところはどこにもない」という。取材でも、夜間のクールシェルターのある自治体は少なくとも東京ではゼロだった。「日中にしても、日本は欧米に比べて日差しを避けて座れるところがなかったり、あっても使いにくかったりする。熱中症予防の普及啓発には力が入れられているが、それだけでいいのか」と、具体的対策の必要性を強調した。
告知されない「休み処」
特に渋谷区では、東京オリンピック開催に伴う再開発が進められ、公園などの公共の場から野宿者は排除されてきた。さらにコロナ禍で使用できる公共施設が減り、シェルターの必要性が増している。だが申し入れに対し同区は、夜間のクールシェルター開放には警備員が常駐している施設である必要があるとしつつ、警備員が常駐する本庁舎1階などの夜間開放を野宿者らが求めても難色を示した。
日中のクールシェルターについては、例えば千代田区は「ひと涼みスポット」と称して公共や民間の施設を開放し、マップの配布や区のウェブサイトでの告知をするなど力を入れている。一方、渋谷区に問い合わせると「休み処」リストを記した紙を手渡されたが、区のサイトには告知がない。地域振興課は「コロナ以降、告知はしていない。それ以前も『しぶや区ニュース』(フリーペーパー)でしか告知していない」とした。(その後、手渡されたリストを微修正したものがサイトに載せられたが、見つけにくいページに数行の告知があるのみだ。『しぶや区ニュース』にも数行の告知が出た。)
渋谷区の約20カ所の「休み処」のうち、野宿者らと協力して半分ほどを回ったが、周知されていないので利用者がおらず、それゆえに施設側の対応が悪かったり、そもそも休めるような環境でなかったりする施設が複数あった。
「ねる会議」のいちむらみさこさんは「私が訪問した施設は休み処であることや利用時間を記した張り紙がなく、利用しづらいと感じた。1階の椅子で休めると職員に言われたが、エレベータ前で目立つし、居心地が悪そう。座りたいとは思えない」とした。日中のシェルターからしても課題山積だ。
アジア女性資料センター理事の本山央子さんは「これは野宿者だけの問題ではなく、公的支援がどんどん奪われていることの延長線にある問題」と指摘。「命を守ることが自己責任という風潮が強まれば、みんなが生き延びられなくなる。誰もがアクセスしうる公共資源を普遍的な権利として要求し、野宿者と市民を分断する動きに抵抗しなくてはいけない」と話した。
(2022年8月5日号。カッコ内は8月4日時点で金曜日オンライン用に追記しました。)