法的根拠がない安倍元首相の国葬
〈編集委員コラム 風速計〉
宇都宮健児
2022年8月19日7:00AM
政府は7月22日、参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の国葬を9月27日に日本武道館で行なうことを閣議決定した。岸田文雄首相は、7月14日の記者会見で国葬とする理由として、首相在職日数が憲政史上最長であること、日本経済の再生や外交に大きな実績を残したこと、国内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられていることなどを挙げている。
しかしながら、国葬に関しては、明確な法的根拠がない。戦前は1926年公布の国葬令に基づいて国葬が行なわれていたが、政教分離を定めた現行憲法の制定にともない1947年に国葬令は失効している。政府は国葬の法的根拠について、内閣設置法で国の儀式が内閣府の所掌事務とされており、国葬は国の儀式として実施するので閣議決定を根拠として行なうことができると説明している。しかしながら内閣設置法が国葬の法的根拠になるとは思われない。国葬に法的根拠がない以上、国会で議論を尽くすべきである。
NHKの世論調査(7月16~18日実施)では、安倍元首相の国葬実施について「評価する」が49%であったが、「評価しない」も38%以上に上っている。『熊本日日新聞』(電子版)の調査(7月15~19日、SNS登録者に実施)では、国葬に「賛成」「どちらかといえば賛成」が合わせて42%であるのに対して、「反対」「どちらかといえば反対」が49%と、反対が賛成を上回っている。
安倍政権は長期政権ではあったが、プーチン大統領と27回も首脳会談を行なったにもかかわらず、北方領土問題は解決できず、最重要課題の一つに挙げていた北朝鮮による日本人拉致問題も解決できなかったなど、外交的実績・成果に乏しい政権であった。また、安倍政権は歴代内閣が堅持した憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する安保法制を強行した。森友・加計学園や桜を見る会をめぐる問題では権力の私物化が問題となった。
さらに、銃撃犯・山上徹也容疑者の犯行動機が明らかになるにつれ、安倍元首相と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係も問題になってきている。
国葬が安倍政権に対する自由な論評を封ずるものになってはならないし、また国民に弔慰を強制することがあってはならないのは当然のことである。そのようなことがあれば正に民主主義の危機となる。
(2022年8月5日号)