安倍元首相の「国葬反対」めぐり訴訟などの運動が拡大
岩本太郎|2022年8月23日7:42PM
安倍晋三元首相の「国葬」への反対の動きが俄然高まっている。
7月21日、市民団体「権力犯罪を監視する実行委員会」が、岸田文雄内閣が国葬を行なうと閣議決定した場合(翌22日「9月27日実施」と決定)は実施しないように予算執行中止などを求める仮処分申請を東京地裁に申し立てた。同委員会は1週間後の29日に東京・永田町の参議院議員会館で報告集会を開いて運動の趣旨を説明。今後は仮処分に続く形で違憲確認・損害賠償訴訟を行なう意向も表明。集会終了後の夕刻からは首相官邸前で抗議行動を開催した。
集会の冒頭、実行委メンバーの一人、武内暁さん(税金私物化を許さない市民の会共同代表)は、法的根拠もなく国会の議決も経ずに国葬を行なうことが憲法19条で定められた「思想、良心の自由」に反すると強調。国葬当日に各地の学校や公共機関での半旗や黙祷の強要などが行なわれないように訴えるなど、地域レベルでの取り組みも重要だと述べた。
実行委の共同代表、岩田薫さん(フリージャーナリスト・元長野県軽井沢町議会議員)はこれまでも黒川弘務・元東京高等検察庁検事長の賭けマージャン問題や、菅義偉前首相の長男が勤めていた東北新社による総務省幹部への接待問題での告発運動などにも尽力してきた。安倍元首相の「桜を見る会」問題でも告発中で、亡くなったとはいえまだそうした立場である「安倍氏の国葬をわれわれの税金で行なうことを許してはならない」などと主張。仮処分に続く本訴に向けて原告メンバー(現在は約50人)の追加募集を8月10日まで行ない、同12日に東京地裁に提訴するとの予定を公表した。
なお損害賠償の請求額は「原告1人につき1円」で、これは印紙代の負担を考慮のうえ「少しでも多くの人に原告として参加してもらえたらと考えました」とのこと。他にもさまざまな形での戦い方を考えているそうで、「みなさんからも何かアイデアがありましたらどんどん出してください」と呼び掛けていた。
【さまざまな「反対」論】
国会議員では伊藤岳(日本共産党)、杉尾秀哉(立憲民主党)の両参議院議員が出席した。
伊藤さんは、自民党の改憲案と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)系の国際勝共連合の改憲案がまるで同じで、先の参院選で旧統一教会がそれを成就するために「カネも票も投じた構図がはっきりしてきた」と発言。
杉尾さんは、国葬について立憲代表の泉健太さんが当初「静かに見守りたい」などの微妙な発言をした際には「何言ってるんだと私も思いました」と苦笑しながら、「議会制民主主義を破壊し、多くの虚偽答弁を行なった安倍元首相が国葬の対象になりえるとは思えない」と批判した。
他にはフリージャーナリストで旧統一教会の問題も追及してきた深月ユリアさんなども発言。深月さんは2009年に旧統一教会と関係が深いとされた印鑑販売会社の霊感商法が裁判で有罪とされ判決が確定した「新世事件」で警察の捜査に、ある国会議員がストップをかけたとされるエピソードを紹介した。
元陸上自衛隊レンジャー隊員で後に兵庫県加古川市議会議員を務めた井筒高雄さんは「元自衛隊員が今回の凶行に及んだことは非常に残念」と語る一方、岸田内閣の国葬決定を「国会の軽視だ」と批判した。
浄土真宗僧侶の酒生文弥さんは安倍元首相と生前に親交があり、なおかつ自身が旧統一教会系のUPF(天宙平和連合)平和大使だと明かしながらも「すでに安倍さんが往生し葬儀も増上寺で営まれたにもかかわらず、国が葬儀を行なうのはご本人にも増上寺さんにも失礼」だと断じた。
終了後のデモも含めて、参加者からはこのように立場を超えつつ国葬に反対するさまざまな意見が発せられた。各地でも反対運動が続々と立ち上がりつつあるだけに今後の展開が注目される。
(岩本太郎・編集部、2022年8月5日号)