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大新聞がのせたがらぬ投書
編集委員コラム 風速計
崔 善 愛(チェ ソンエ)

2022年9月2日7:00AM

 ウクライナへ支援の想いを届けたいと、「ウクライナ国歌」をうたう日本のヴォーカルグループが話題になったことがあった。その美しい歌声を聞きながら、正直複雑な気持ちにもなった。

 国旗国歌は、「国家」を讃えるものだからこそ、その国の歴史と切り離せない。また国といっても、ひとつの民族、ひとつの思想ではくくれない。

 わたしの娘には大学で知り合ったロシア出身の友人がいて、父親はロシアに住んでいる。ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシア国旗にもウクライナ国旗にも複雑な想いを抱えているにちがいない。

 昨年5月、サッカーワールドカップの予選のため来日したミャンマー(ビルマ)の選手ピエリアンアウンさんが、試合前の国歌斉唱時、3本の指を掲げて自国の軍事政権に対し、抵抗を示した。

「国旗国歌」への意思表示は、戦争や軍事政権、国家暴力への意見表明にもなっている。もはやウクライナの人にとって、ロシア国旗は、侵略戦争の記憶として刻まれたことだろう。ひるがえって「日の丸」の記憶は、もう消え去っただろうか。

 広島の被爆者で詩人の栗原貞子さん(1913~2005年)は1977年、広島で開催された全国平和教育シンポジウムで以下の「大新聞がのせたがらぬ投書」を取り上げた(シンポジウムの記録から要約)。

〈田中角栄訪中のエピソードは数々あるが、北京空港で「大日章旗」がひきおろされる事件が起きた。一人の高齢女性が捕まった。彼女は涙もふかず訴えたという。

「国交回復は結構だが、あの日の丸だけは我慢できない! あの時、日本軍は夫を息子を娘を殺し、私は一人ぼっちとなった。それからの苦しみと悲しみは筆舌に尽くせない。どうか日の丸だけは……」と。

 この憎しみはアジア諸国民の日の丸観のひとつの典型ではないでしょうか〉

 続けて栗原さんは、このように話した。

〈マスコミ始め国民が侵略戦争のシンボルだった日の丸・君が代の犯罪性に沈黙し、体制に順応しているとき、平和教育の中でこのことを教えるのは困難であります。国民の精神的支柱として再び日の丸・君が代・教育勅語を復活させる一方で被爆国をとなえ、原爆の悲惨を訴えても「ああヒロシマ」と世界の人々は共感してくれません〉

 栗原貞子の思想を私は深くかみしめる。

(2022年8月26日号)

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