維新の強引な議会運営か
わずか半日の審議で採決
大阪カジノ住民投票条例案否決
平野次郎・フリーライター|2022年9月10日7:00AM
大阪府・市が大阪湾岸の夢洲への誘致を進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の賛否を問う住民投票条例案について、府議会は7月29日に臨時議会を開き、大阪維新の会と公明党の反対多数で否決した。市民団体の「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」(以下「もとめる会」)が同21日、条例制定に必要な法定数を超える有効署名を府に提出し、吉村洋文知事に条例制定を直接請求していた。
大阪府・市によるIR誘致は、国の認定を受けるための整備計画が今年3月末に府議会と市議会で可決されたあと4月末に国へ認定申請し、国が審査している。
「もとめる会」はカジノ誘致の賛否を問う住民投票条例の制定を求める署名運動を3月末に開始し、5月末までの署名期間に府内有権者数の50分の1(約14万6000筆)の法定数を上回る約21万筆を集め、6月初めに府内72市町村の選挙管理委員会に提出した。だが、大阪維新の会代表でもある吉村知事は「今の時点で住民投票をする必要はない」と、署名運動の盛り上がりに水を差す発言をしていた(本誌6月17日号既報)。
その後、各選管が署名簿を審査した結果、19万2773筆が有効署名とされた。「もとめる会」は7月21日に署名簿入りの段ボール箱約200個を府庁に運び、吉村知事に条例制定を直接請求した。
同29日午後1時に開会した臨時府議会では、吉村知事が住民投票条例案に反対意見を付けて提出。「IR誘致は法に基づいて必要な手続きを進め、選挙で選ばれた議員による十分な議論を経て議決されている。住民投票を実施する意義は見出しがたい」と説明した。
この後、条例の請求代表者として「もとめる会」の6人による計30分の意見陳述があり、山川義保事務局長は「選挙で選ばれた議員が決めたからそれでいいというなら、住民投票を求める府民の意見を封じることになる」と批判。続いて会派による代表質問があり、維新、公明、自民党の順に住民投票の是非などについて質したが、吉村知事は「住民投票を実施する必要はない」との答弁を繰り返した。
本会議は以後、約3時間の休憩をとって議会運営委員会を開いたうえで午後6時半ごろ再開。自民が住民投票条例案の修正動議を出し、原案が投票資格者に外国人を含めているのを日本人に限定する修正案を提出した。原案と修正案一括で討論に入り、維新と公明は「議会の議決を得ている」などとして住民投票に反対。自民は「IRを成功させるために府民の理解を得る必要がある」として、原案には反対だが住民投票は賛成との意見を述べた。採決の結果、原案は維新と公明、自民による反対多数で否決。修正案は維新と公明、共産の反対多数で否決された。
同じ日に住民訴訟を提起
このように臨時府議会では、請求代表者6人の意見陳述を1人平均5分に制限しただけでなく、詳しい審議をするための委員会付託もなかった。5人以上の会派しか代表質問や討論ができない慣例を適用して維新、公明、自民以外の会派に発言権を与えないまま、わずか半日の審議で即日採決した。
先にカジノの住民投票条例案を否決した2021年1月の横浜市議会や22年1月の和歌山市議会では、いずれも条例案を常任委員会に付託して請求代表者の意見陳述を聞くなど審議に3、4日ずつかけてから本会議で採決している。
大阪府では議席の過半数を占める維新が強引な議会運営で異論を封殺したとの批判は免れない。閉会後の記者会見で「もとめる会」は「府政史上の重大な汚点として長く記憶される」と抗議した。
一方、府議会開会の29日、市民ら5人が夢洲へのIR誘致で事業者を優遇するのは違法として、大阪市が事業者と市有地の借地権設定契約を締結しないことや、事業者に土地改良事業費を支払ってはならないとする訴えを大阪地裁に起こした。訴状では、市が夢洲の液状化防止や土壌汚染対策などの土地改良費を負担するのは特定企業の優遇であり、憲法の平等原則に反するなどと主張している。