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戦没者の尊厳はどこへ
具志堅隆松さんの悲痛な訴え

西中誠一郎・ジャーナリスト|2022年9月13日7:00AM

東京・日本武道館と靖国神社周辺で遺骨混入土砂の採取反対を訴えるハンストを行なった具志堅隆松さん(左)。(撮影/西中誠一郎)

「世の中に間違っていると断言できることはそう多くはない。しかし防衛省が間違えていることははっきりしている。これは戦没者の尊厳を守る人道上の問題です。防衛省が撤回するまで世界中で言い続ける」

 沖縄県の米軍辺野古新基地建設の海上埋め立て工事で、沖縄本島南部地域の戦没者の遺骨が混入した土砂を使うことに反対すべく、防衛省との意見交換会の最後に、沖縄戦戦没者の遺骨収集活動をこれまで40年間続けてきた具志堅隆松さん(68歳)はそう断言した。

 8月5日、東京・永田町の衆議院第二議員会館で「戦没者遺骨に関するガマフヤーと国との意見交換会」が開催された。沖縄やアジア太平洋地域の戦場に動員され非業の死を遂げた日本人や旧植民地出身者の軍人軍属、民間人犠牲者、アメリカ兵などの遺骨鑑定や遺族等への返還をめぐり、この問題に取り組む日韓の市民団体や遺族等が、厚生労働省や外務省、防衛省の担当者に約3時間にわたり、説明を求めた。

 政府は2016年に「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」を制定し、国の責任において、先の大戦の戦没者の遺骨収集や身元特定、遺族等への返還を効果的に推進する措置を講じた。

 その後、具志堅さん等の遺骨返還要請活動の政府交渉を通じて、沖縄戦戦没者遺骨のDNA鑑定を実施することや、昨年10月には厚労省が遺留品等の手がかりがない戦没者遺骨の身元特定のためのDNA鑑定の対象地域拡大と、遺族の申請手続きを開始し、戦後77年目にして戦没者の遺骨収集・返還が国家事業として着手された。

 しかし一方で、防衛省沖縄防衛局は20年4月に辺野古沖の軟弱地盤の埋め立てのため計画変更を沖縄県に申請。その際、必要な大量土砂の採取計画に上がった7カ所のうち1カ所が沖縄戦激戦地の沖縄本島南部地域であることが新聞報道で発覚した。

 当初、具志堅さんは半信半疑だったが、遺骨収集の現場が採石業者によって伐採された現実に直面し、同年11月以降、南部地域からの土砂採取計画を中止するための防衛省要請行動を開始した。

 5日の政府交渉で、防衛省は「土砂の調達先は工事の実施段階で決まるもので、現時点では確定していない」と繰り返すだけだった。

ハンスト座り込みの2日間で実施したアンケートシール投票の結果。(撮影/西中誠一郎)

200以上の自治体議会で「採取中止を求める」意見書採択

「このことは沖縄だけの問題ではない。沖縄戦で亡くなった6万7000人の兵士は日本全国や植民地からも動員されている。しかし故郷に帰ることができた遺骨はゼロです。多くの沖縄住民も死んだ。まだその遺骨が眠っている場所です。それを日本政府は、米軍基地建設のために海に捨てようとしている。これは人道上の問題です」

 具志堅さんは毎年8月15日に東京の日本武道館で開催される「全国戦没者追悼式」に参加する遺族や、近くの靖国神社への参拝客にもこの現状を訴えるために今年は同神社前で2日間のハンストを始め、南部地域からの埋め立て土砂の採取に賛成か反対かのシール投票を支援者と一緒に行なった。

 具志堅さんは、全国の地方自治体1741議会に「遺骨土砂の採取中止を求める」意見書の採択を求め、現在200以上の議会で採択されている。

 また、7月にはスイス・ジュネーブの国連の「先住民族の権利」に関するイベントで発言し、沖縄住民の自己決定権なしに軍事基地建設はありえないことを訴えた。

「日本という国が、戦争犠牲者に対してどう向き合うのかという、誰にとっても身近な問題です。台湾有事が問題視される中で、再び沖縄を戦場にしてはなりません」

 8月15日の靖国神社の喧騒の中で、具志堅さんは語った。

(『週刊金曜日』2022年8月26日号)

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