ジェンダー, ジャーナリズム・文化, 政治・国際, 教育, 社会
「表現の不自由展・京都」
厳戒態勢の中で開催
井澤宏明・ジャーナリスト|2022年9月14日7:00AM
美術館で展示を拒否されたりタブー視されたりした作品を集め「表現の自由」について考えてもらおうという「表現の不自由展・京都」が8月6、7両日、京都市内で開かれた。2019年の「あいちトリエンナーレ」(以下、あいトリ。現在は国際芸術祭「あいち」)以降、名古屋、大阪、東京に続く4カ所目。右翼や排外主義団体の街宣車が押し掛け大音量で抗議する光景は相変わらずだったが、目を引いたのは京都府警の徹底した警備だ。
府警は会場につながる辻々にバリケードを用意して多数の警察官を配置。時には会場前の道路を150メートル近く通行止めにし、街宣車を会場に近づけないようにした。会場前には荷物預かりカウンターが設けられ、ゲート型金属探知機を通って会場に入る形だ。
実行委員会によると、府警は防犯カメラの設置を助言するなど当初から積極的だったが、7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件後はピリピリした雰囲気が伝わってきたという。ゲート型金属探知機の設置を決めたのも事件後のことだ。
その「副作用」が会場の外に表れた。筆者が目にしたのは6日午後、バリケード封鎖された交差点で大勢の警察官に囲まれている若者たちの姿だ。会場に近づこうとして押し止められているらしい。
押し問答の末、警察官らに後をつけられながら会場向かいのケーキ店に入った若者たちに事情を聞いた。「待ち合わせしていただけなんです」。4人は京都大学法学部2回生。うち女性2人は不自由展の予約ハガキを持っていた。
これから見に行くという女性のシャツには「BLACK LIVES MATTER」の文字。米国在住経験から「日本では何でそこまで(表現を)排除したいのかな。どんなアートにもどこかに政治性はある。きれいな絵だけ見たいとか、人間の汚い面から目をそらしているのはどうなのかな」と率直な疑問を投げかけた。
会場内は静かな雰囲気
一方、会場は警備の成果もあって、抗議の声が遠くから時々聞こえるものの、静かな雰囲気が保たれていた。あいトリで批判が集中した「平和の少女像」の隣のイスに腰かけて記念写真を撮ったり、作者の解説に熱心に耳を傾けたりする来場者たち。
あいトリの不自由展にも出品した美術家の岡本光博さんは新作を展示。そのうち「表現の自由の机6」と題する作品は、3年前の不自由展中止を伝える新聞紙面をあしらった「机」の上に、街宣車の精巧なミニチュアを載せた。
「いろんな意味を込めて作っています。それがアートの面白い、ズルいところ」と岡本さん。街宣車が押し掛け、警備に守られないと開催できない状況を「今の日本の文化レベルを示している」と評し「(会場の)内と外をつなげたかった」と作品への思いを語った。
さまざまな制約の中での開催だった。事前予約制で定員720人は7月末に埋まった。街宣車が押し掛け近所に迷惑をかけるのを防ぐため、会場を非公表とし、予約者に伝えたのは開催直前。
実行委には葛藤があったようだ。メンバーの女性は「私たちが苦しんだのはご近所さんとの関係。『あんたたちが悪いんやないのはわかってるで』と言ってくれる人もいたけど、街宣車が押し掛けて会場や近隣に迷惑をかけることに押しつぶされそうになった」。会場名を報道したり事前報道したりすることを控えるよう要請したことについても「私たちは『不自由』展をやっているのに、『報道の自由』に踏み込んでしまったかもしれません。まさに『開催の不自由』展なんです」と打ち明ける。
(『週刊金曜日』2022年8月26日号)