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見えなくさせられる原発避難者
復興庁が統計から除外

鈴木博喜・『民の声新聞』発行人|2022年9月16日8:12AM

 復興庁が福島原発事故の避難者に関連して6月14日に公表した「全国の避難者数~福島県外避難者に係る所在確認結果」の中で、福島県に戻る意思のない人や所在確認ができなかった人を避難者数から勝手に除外していた。8月23日に東京・永田町の衆議院第一議員会館で開かれた復興庁との意見交換の席で、この件について避難者が抗議した。

8月23日に開かれた復興庁(正面奥の2人)と原発避難者との意見交換。(撮影/鈴木博喜)

 除外された避難者は所在が確認できなかった2897人、所在は確認できたが福島に帰還する意思のない避難継続者1111人、死亡確認された114人、別の市町村に転居した避難継続者2482人と、実に計6604人にのぼる。調査は全国の避難者に「転送不要」で書類を郵送する形で行なわれ、返送されてきた避難者については避難先市町村に所在確認を依頼し、帰還意思も尋ねたという。

 意見交換で避難者側は何度も除外の理由や意図、根拠を尋ねたが、復興庁側は「(事故から)10年以上がたち、避難先で仕事をしたり子どもが就学するなど定住されている方については、少なくとも被災地に戻る意思がない。避難先の市町村に確認してもらったうえで定住するという方だけ避難者の統計から外させていただく」「最初の避難所の調査をやっていた時から基本的には『被災地が復興した場合には帰る人』を対象としているものと認識している」(被災者支援班・藤田泰章参事官補佐)など的外れな説明をするばかり。

 同席した福島みずほ参議院議員(社民党)は「回答が合っていない。完全に問題のすり替え。故郷を失い逃げざるを得なかった人たちは避難者ではないか。帰還の意思は関係ない」と声を荒らげた。だが同庁側の姿勢は変わらず、取り繕うように「『被災者』でなくなると考えているものではない。『被災者』ではあると考えている」とも口にしたが、最後まで「福島への帰還意思がなくても原発避難者」とは認めなかった。避難者の定義から「帰還意思の有無」を削除することも拒んだ。

原発避難者の不可視化か

 原発避難者は原発事故が起きたから福島県外に避難した。私的な旅行でも転居でもない。その人たちを「帰還意思」というフィルターで選別して除外するのは統計の恣意的な運用だ。原発避難者支援施策の根拠となる数字が矮小化されれば支援策に充てられる予算が減らされることもありうる。

「『避難者数は減らすが平等に支援します』など単なる言い訳。必要な支援が継続されないのではないか」(大賀あや子さん。大熊町から新潟県阿賀野市へ避難)

「避難者支援が年々縮小していると肌身で感じている。支援が削られていくのが怖い」(中手聖一さん。福島市から札幌市へ避難)

「避難者を不可視化する動きだ。見えない者への支援策が拡充するとは考えにくい」(宇野朗子さん。福島市から京都府木津川市へ避難)

 と、出席した避難者が口々に危機感を訴えたのも当然だ。村田弘さん(同県南相馬市から横浜市へ避難)も「避難者数を自分たちの政策に合わせて数え直すなどという仕組みを認めたら統計も何もなくなってしまう。数の問題を軽視してはいけない」と終了後の記者会見で語気を強めて述べた。

 安倍晋三政権下の2013年12月、20年の東京五輪までに原発事故被害を解消するとの福島復興加速化方針が閣議決定された。今回の意見交換に同席した山崎誠衆議院議員(立憲民主党)は「安倍政権の冷たさと根っこは同じ。政府は原発を再稼働したくて事故を早く終わらせたい」と指摘する。岸田文雄首相は原発新増設と再稼働を明言したが、原発避難者の存在が邪魔だというわけだ。

 森松明希子さん(郡山市から大阪市へ避難)の言葉が、この問題の本質を的確に表している。

「国は原発避難者をお荷物扱いしているが『避難者ゼロ』とされてしまったら、支援を必要としている人の声さえ拾われない。それは基本的人権の侵害だ。私たちには人権がある。必要な保護や支援、ニーズに合った手当を災害避難者として平等に受ける権利がある」

(『週刊金曜日』2022年9月9日号)

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