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幻想のリニア「2027年開業」
静岡県知事が神奈川県内の工事現場を視察

樫田秀樹・ジャーナリスト|2022年9月16日7:00AM

「2027年開業に幻想を抱くのではなく、不都合な情報は共有されなければならない」

 川勝平太静岡県知事の発言だ。9月7日、川勝知事は神奈川県相模原市のリニア中央新幹線(以下、リニア)の建設現場を視察した。

9月7日、リニア神奈川県駅建設現場でJR東海職員から説明を受ける川勝平太静岡県知事(右)。(撮影/樫田秀樹)

 静岡県は県内を流れる大井川の水量がリニア工事により減る可能性があるが、事業者であるJR東海との間で解決策が共有されないことを理由に県内の本線着工を認めない。このためJR東海は「(静岡のせいで)目標とするリニア27年開業は難しい」と主張する。

 だが静岡県はリニア推進の立場ではある。川勝知事は推進の一つの形として今年8月、リニア実験線(将来の営業線を兼ねる)のある山梨県と、隣の神奈川県との間で部分開業をすべきと表明した。今回の視察はその可能性を確認するためのものだった。

 メディアに事前に伝えられた視察先は2カ所。相模原市緑区の大洞非常口(斜坑)と、JR東日本・橋本駅近くで建設中のリニア神奈川県駅だ。川勝知事はJR東海から現場で工事概要の説明を受けたが、その後の相模原市役所での囲み取材では、記者たちの想定外の報告をした。大洞非常口の後で、知事ら静岡県職員一行はJR東海の案内もなく、同じ緑区の鳥屋地区にあるリニア車両基地予定地に立ち寄ったというのだ。

「基地の工期は11年。だが現場に降りるとまだ人家が残り、工事が始まっていないことを今日初めて知った。仮に来年着工しても34年完成。27年部分開業も間に合わない。大変ショックを受けた」

 車両基地の「工期11年」はJR東海の環境影響評価書で公開されていて、未着工以前に工事未契約でもある。知事の認識は正しく、リニア計画と対峙する市民団体でも数年前から周知の事実である。

性急な用地買収への疑問

 静岡県は今年、都府県としてリニアを推進する「リニア新幹線建設促進期成同盟会」に加盟したが、川勝知事が同会合に出席して覚えたのはリニア計画沿線の知事たちが抱く「27年開業という幻想」への違和感だったという。20年6月、川勝知事は金子慎JR東海社長に「なぜ静岡だけが27年開業の足を引っ張ると言われるのか。他県の各地で工事が遅れている」と訴えたが、この時点で27年開業は無理だと判断していたのだ。今回の記者会見ではこう訴えた。

「今回の視察が(工事の遅れという)『不都合な真実』を期成同盟会で共有するための突破口になればと考えている」

 筆者は川勝知事に質問をした。

「神奈川県駅は4工区に分かれ、その一つは工期10年だが工事未契約。工事後の電気調整試験やリニア走行試験も合わせると12年かかり、完成は34年になる。この説明をJR東海から受けましたか?」

 知事は「受けていません。27年開業を目指すということでした」と回答した。一方、金子社長は翌8日の記者会見で車両基地について「27年までに整備するつもりで工事を進める」と回答した(『静岡新聞』9月9日付)

 駅も車両基地も27年までの完成はほぼ不可能だが、注視すべきは鳥屋ではすでに先祖伝来の土地を泣く泣く手放した人たちがいることだ。何年も前から工事の遅れが自明であった以上ここまで性急な用地買収は必要だったのか。筆者は用地買収を担う神奈川県の担当部署に「工事の遅れを認識しているか」と質問したが「JRからは27年に向けて工事をしていると聞いています」との回答を得るだけだった。今後川勝知事が期成同盟会や各都県に27年幻想への一石を投じられるか注視したい。

(『週刊金曜日』2022年9月16日号)

※工事の遅れの一覧表などリニア建設問題の現状については本誌昨年12月10日号の特集「持続不可能なリニア中央新幹線」を参照。

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