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陰謀論者たち
編集委員コラム 風速計
田中優子

2022年9月16日11:03AM

 私には、「この言葉を聞いたら、それを言った人とは二度と関わらない」と決めている言葉がある。それは「陰謀」だ。

 陰謀論ほど卑怯な論法はない。なにしろいかなる問題であろうと「~の陰謀」なのだから、自分は関係なく責任もない、と思うことができる。陰謀論ほど、怠惰な態度はない。陰謀なのだから自分は努力しても無駄だ、と思えるからである。さらに、陰謀論ほどその人の頭の悪さを示すものはない。陰謀なら、それ以上何も考えなくともよくなるからだ。つまり、陰謀論者はものごとを調べたくもないし考えたくもないのである。考えるのはただひとつ、誰かが言ったことに乗って、都合が悪くなると、自身は責任をとらずに逃げ切ることだ。

 米国のトランプ大統領を当選させたのは陰謀論だったようだ。しかし、陰謀論によって引き起こされた議事堂襲撃事件で、トランプは再起不能になるかもしれない。どちらにしても、世界は陰謀論に満ちていて、それを信じる「信者」もあとを絶たない。

 陰謀論は一種の信仰である。カルト信仰者と陰謀論者は似ている。2011年の東日本大震災の時、「この地震は日本を滅ぼすための陰謀だ」と言う声を身近で聞いて、その奇想天外な発想にぞっとした。カルト信者の心模様そのままである。

 総務省の政務官に任命された杉田水脈氏が陰謀論者であることを、つい最近知った。16年ごろ、保育所や学童保育は家族を軽視しており、子どもを洗脳するためにコミンテルンがしくんだ陰謀、と言っていたそうだ。コミンテルンなるものは1943年に解散し、それ以降存在しない。共産主義が家族を壊そうとしていると信じているようだが、プーチンのロシア憲法は家族を重要視している。兵力が足りないからだ。つまりその国の主義主張に関係なく、権力が「家族」と言い出した時は兵力と産業力のために人口を増やしたいからであって、人間にとって家族はどうあるべきかを、深く考えた結果ではない。

 故安倍晋三氏は首相時代、その杉田氏を高く評価し、かばい続けた。陰謀論者は互いに結束し肯定し合う。内部批判力をもったら陰謀論は成り立たないのだ。外部にある何かを陰謀する「サタン」と決め、責め続ける。そこもカルトと似ている。今回の人事は、岸田文雄首相も陰謀論者で、差別主義者であることを示してしまった。

(『週刊金曜日』2022年9月9日号)

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