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表現の現場調査団の「ジェンダーバランス白書2022」
表現界の男女比率に偏り
小川たまか・ライター|2022年9月22日7:00AM
8月24日、表現の現場調査団による「ジェンダーバランス白書2022」が発表され、東京都内で記者会見が行なわれた。
同調査団は、表現の現場における不平等を解消しハラスメントのない「真に自由な表現の場」を作ることを目的として2020年に設立。昨年には「表現の現場ハラスメント白書2021」を発表している。この調査には1449人から回答があり、そのうち「何らかのハラスメントを受けた経験がある」と回答した人が1195人、そのうち「身体を触られた」(503人)、「望まない性行為を強要された」(129人)といった深刻な状況も把握された。
今回は、前回調査で明らかになったハラスメントの背後にジェンダーバランス(男女比率)の不均衡があることに鑑み、各分野でのコンクールやコンテストの審査員及び受賞者、さらに教育機関における教員や学生のジェンダーバランスを調査した。対象は美術、演劇、映画、文芸、音楽、デザイン、建築、写真、漫画の9分野と美術大学・音楽大学などの教育機関で期間は11年〜20年の10年間。
教育機関においては、美大(東京藝術大学と美術大学5校)・音大(音楽大学12校、音楽系学部14校)ともに学生は女性比率が7割以上だが、教授比率は美大で8割が男性、音大では6割が男性。理事長や理事会については8〜9割を男性が占めた。学生には女性が多いが、その現場で学術的・社会的地位を得るのは男性が多く、常勤教員と学生数を単純に比較すれば、たとえば武蔵野美術大学では女性教員1人につき女子学生128人、男性教員1人につき男子学生11人となり、女子学生がロールモデルとなる女性作家と出会う機会が少ない現状が指摘された。
また、美術館(近代美術館含む15館)での個展開催数や美術館の購入作品も男性の個展・作品が7〜8割を超えた。
コンクールやコンテストでは、審査員の男性比率が軒並み高く、演劇分野では76%が男性、文芸分野では特に評論各賞における男性比率が94・7%と突出していた。それぞれの大賞などの受賞者は、演劇分野が男性64%、評論分野は男性75・8%だった。
映画分野の賞レースでは、若手が対象の賞では受賞者の女性比率が全体平均よりもやや上がるが、日本アカデミー賞では受賞者の94・5%が男性など、より権威的な賞で男性比率が多くなる傾向が指摘された。
「自由競争」になってない
調査団のひとり、アートユニット・キュンチョメのホンマエリさんは「同質性が高い場所では他のものが排除されている。評価する側が男性に偏っている場合、評価するものも偏ってしまう」と指摘。「(対象者の)ジェンダーなど意識していないと思っていてもアンコンシャスバイアスは働く。女性だけではなく文化にとっての損失。特に審査員のジェンダーバランスを見直していただきたいと思っている」と話した。
アクタートレーナーの森本ひかるさんは、「私はこれまで演劇界に自分の居場所がないのは、自分が人間的に何か欠けていたり才能がないせいだと思っていた。というのも、私と同じようなキャリアを持つ男性たちが、指導的立場につく男性たちに気に入られ、親密になり仕事を得ていくところを私は外側から見てきたから。だが今回の調査で、こういった疎外される経験は私にのみ起きているわけではなく、男性でない演劇人に広く起きているものであると可視化されたと感じている」と、調査結果の周知を呼びかけた。
調査に協力した評論家の荻上チキさんは、男性が審査して男性が評価され、教育や評価機関にふるい落とされた女性たちが消費者として主に男性表現者を支える「いびつな構造」があることを指摘。「このような構造があると指摘しても、しばしば自由競争の結果だと言われてきた。実際にはアンフェアな状況があると数字で可視化されれば、そのような退けはもう不可能になる」とまとめた。
調査団がまとめた「表現の現場ハラスメント白書2021」及び「ジェンダーバランス白書2022」は、団体の公式サイト(https://www.hyogen-genba.com)から確認することができる。
(『週刊金曜日』2022年9月2日号)