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崔江以子さんへの差別投稿
法務省が192件を違法認定
中村一成・ジャーナリスト|2022年10月2日7:00AM
マイノリティ当事者が世に差別被害を訴えることは、過酷な二次、三次被害のリスクを伴う。その一つがネット空間における不特定多数のレイシストからの攻撃だ。被害者に沈黙を強いるこの構造に抗う当事者の闘いが、反差別の地平をまた一歩、切り開いた。
実名と顔を晒し、ヘイト根絶を訴えてきた川崎市の多文化交流施設「ふれあい館」館長の崔江以子さん(49歳)だ。彼女を攻撃する書き込み中300件について2020年12月、崔さんと弁護団は法務省横浜地方法務局に削除要請を依頼。同省は64%にあたる192件(ブログ・掲示板約95%、ツイッター約60%)を人権侵害の違法な書き込みと認め、プロバイダーに6月までに削除要請を行なった。
崔さんらは当初、川崎市に対し「差別のない人権尊重のまちづくり条例」(2019年12月制定)に基づく被害救済を訴えたが、340件中、市がヘイトスピーチと認定、削除要請したのはうち8件。やむを得ず法務省に申請した。法務省の「違法」に比べて「ヘイトスピーチ」はより狭い概念とはいえ、対応の違いは際立つ。
ピーク時、ネットの書き込みは2000万件に達したという。「よく生きてこられたと思う。被害をなかったことにしない対応に救われた」。9月8日、川崎市内での会見で崔さんは思いを吐露した。
川崎市の条例はヘイトスピーチに刑事罰を科す画期的な内容だが、市は適用に積極的とはいえない。今も続くレイシストの抗議や、訴訟リスクなどを警戒してのことだろう。「先頭走者」ならではの難しさもあるが、これを機に慎重姿勢を転換すべきだ。
国が求めた指紋押捺拒否者の告発に抗う「不告発宣言」、市職員の国籍要件緩和(任用制限の固定化という禍根を残した面もある)、刑事罰条例と、「住民本位」の模範を示してきた先進地・川崎市の矜持をいまこそ見せてほしい。
(『週刊金曜日』2022年9月30日号)