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入管行政の抜本的改革を迫る判決 〈編集委員コラム 風速計〉
宇都宮 健児

2022年10月7日6:59AM

 東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で2014年3月に収容中のカメルーン人男性(当時43歳)が死亡したのは、体調不良を訴えたのに入管側が放置したためだとして、男性の母親が国に対し1000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、水戸地裁(阿部雅彦裁判長)は9月16日、入管側が男性の救急搬送を要請する義務を怠ったとして、国に対し165万円の賠償を命じる判決を言い渡した。入管施設での収容者の死亡をめぐり、国に賠償命令が出されるのは初めてのことである。

 判決によると、男性は13年10月に成田空港で入国を拒否され、同年11月に東日本入国管理センターに収容された。男性は糖尿病などを患い、同センターの非常勤医師の診察を受けていたものの、体調が悪化。14年3月29日に、「アイム ダイイング(私は死にそうだ)」などとうめき声を上げたり、胸の痛みを訴えたりして立てなくなったが、職員は床に寝かせたままにしていた。30日朝に男性が心肺停止状態になっているのを職員が発見し、病院に救急搬送したが、死亡が確認されたということである。

 判決は苦しんでいた男性の状態を「尋常ではない状態だった」とし「速やかに救急車を呼ぶべきだった」と指摘し、心肺停止状態で見つかるまで搬送しなかった入管の対応には注意義務違反の過失があるとした。

 入管施設での死亡事案としては、昨年3月に名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が死亡した事案が記憶に新しい。ウィシュマさんは、体調不良を訴え続けていたにもかかわらず、適切な治療を施されないまま入管施設で死亡した。

 ウィシュマさんの遺族らは今年3月、国に対し、約1億5600万円の支払いを求める訴訟を提起し、現在名古屋地裁で係争中である。ほかにも、入管の医療措置に不備があったなどとして国に対し損害賠償を求める訴訟が複数提起されている。

 全国の入管施設では、07年以降17人の外国人が病気や自殺で亡くなっている。国の施設で死亡事案が多発していることは異常である。同じ悲劇を繰り返さず収容者の命を守るためにも、国は今回の判決を重く受け止め、常勤医師の確保など、医療体制の強化をはじめとした入管行政の抜本的改革を図るべきである。

(『週刊金曜日』2022年9月30日号)

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