戦時強制労働の史実を伝える「笹の墓標展示館」巡回展
室田元美・ルポライター|2022年10月11日7:00AM
東アジア市民の交流拠点に
1976年に朱鞠内で戦時強制動員犠牲者の位牌に出合い、以後、市民に呼びかけて発掘やワークショップを始めたのが殿平善彦さん(笹の墓標展示館再生・和解と平和の森を創る実行委員会共同代表)だ。
「北海道の朱鞠内という土地で起きたことではあるが、東アジアの若者たちを中心に立場を超えた人々が戦時強制動員を自分たちの課題として考えてきたことに意味がある。巡回展では遺品を通じて死者と向き合ってほしい。犠牲になった人たちから、この事実を忘却の彼方へ押しやるのではなく、今を生きる人よ、受け止めろと言われているのではないか」(殿平さん)
自身は浄土真宗本願寺派一乗寺の住職だが、遺骨発掘の場では先住民アイヌが祈りを捧げたり、また今回の巡回展がキリスト教会で行なわれたこともあった。悼む心に国や民族、宗教の垣根はないと殿平さんは言う。
97年から遺骨発掘ワークショップに参加している、在日コリアン3世の金正姫さんは「展示館の倒壊は悲しかったけれど、より多くの人に知ってもらうのに巡回展はいい機会」と話す。
「30代だった当時『韓国から参加する若者や在日コリアンと一緒に、民族としての恨、解放されない魂を解きたい』と願って参加した。でも、今は同じ体験を通じてつながった人たち誰もが私にとって未来を創る大切な仲間。ワークショップのテーマは『過去を一緒に掘り起こし、現在の問題を見つめ、未来をともに創っていこう』というものですが、巡回展を通じて東京でも来場される方々と一緒にそんな場を創れたらいいと願っています」(金さん)
東アジアで政治的には問題を抱える中、市民が過去の歴史にどのように向き合い、よい関係を築くために何ができるのかを考える機会になるだろう。東京展に続いて京都展が西本願寺にて開催される(10月17日〜25日)。巡回展および東京展の詳細は公式サイト(https://www.sasanobohyo.com/)で。
(『週刊金曜日』2022年10月7日号)