金儲けとプロパガンダ 〈編集委員コラム 風速計〉想田和弘
2022年10月14日7:00AM
9月27日、安倍晋三元首相の国葬が行なわれた。国葬は、安倍氏を弔う葬式ではない(葬式はすでに行なわれた)。それは安倍氏の死を岸田文雄政権が政治利用するための、プロパガンダ装置。徹頭徹尾、政治的なイベントであり、ショーである。
岸田首相は安倍氏が殺害された当初、国葬をすれば自分の政権の人気と安定性が高まると考えたのだろう。だからこそ根拠法が薄弱であるにもかかわらず、独断で開催を決定した。国会を通すどころか、自民党内にすら十分な根回しをしなかった。
しかし安倍氏と統一教会の深い関係が明らかになるにつれ、国葬は不人気になっていった。最初は「統一教会」の名前すら出せなかったメディアも、安倍氏という怖いお目付け役がいなくなったせいか、安倍政権以前を思わせるような突っ込んだ報道をするようになった。その結果、国葬開催直前の各社世論調査では、国葬反対が賛成を大きく上回った。国葬は岸田政権を浮揚させるどころか、アキレス腱になった。
ところが呆れたことに、テレビ東京以外のテレビ局は、長時間の生中継をした。フジは4時間、テレビ朝日は5時間以上の特番を流したらしい。「らしい」と書いたのは、僕は見ることを一切拒絶したからである。
テレビ局が生中継したのは、オリンピック同様、国葬を「視聴率が取れるコンテンツ」と判断したからだ。見てしまえば、人の死を利用した金儲けに加担することになる。五輪と違って放映権料なしで中継できるのだから、局にとってはおいしい話だ。
それに生中継を見ることは、国葬に疑似的に参列することを意味する。疑似的にせよ参列すれば、大手イベント会社が設計した儀礼的演出に感情が動かされて、国葬反対から賛成に傾く人も多数出てくるだろう(だからこそプロパガンダ装置なのだ)。
実際、リアルに参列した玉木雄一郎国民民主党代表は「友人代表として挨拶をした菅元総理の言葉には感動しました。あの挨拶で国葬儀に対する印象が変わった人もいるのではないでしょうか」とツイートした。菅氏の原稿にプロの手が入っていないとは、僕にはとても信じられないのだが。野党党首までプロパガンダにやられてしまうのなら、一般人はイチコロだろう。
テレビ局は権力を監視する報道機関のはずである。金儲けではなく、本来の仕事をしてほしい。
(『週刊金曜日』2022年10月7日号)