刑法性犯罪規定の改正議論 被害者視点を欠いていないか
小川たまか・ライター|2022年10月20日7:00AM
「被害が犯罪にならない」
中山弁護士らは「拒絶する意思」という文言があるB案について、抵抗の証明を被害者に求める現行法と変わらないのではないかと懸念を示す。
ヒューマンライツ・ナウ副理事長の伊藤和子弁護士は、加害者側が「抗拒不能だと知らなかった」と主張し不起訴や無罪になったケースがあるとし、「拒絶の意思を形成・表明することが困難という要件で対応できるのか」と指摘。中山弁護士も「被害者に拒絶義務を課しているわけではないと議事録には残っているが、(捜査にあたる警察関係者など)みんなが議事録を読むわけではないので、真正面から規定していただきたい」と話した。
また、現行刑法で「性交同意年齢」は13歳。カナダ・イギリス・韓国は16歳など、他国と比べて低いことが指摘されてきた。審議会では16歳への引き上げが検討されているが、例外を作らずに規定するA案と、13歳以上16歳未満については例外を設けるB案とで意見が割れている。
例外規定を取り入れるかについては当事者・支援団体の中でも意見が分かれるところとしながらも、伊藤弁護士は「B案は年齢差要件の上にさらに実質要件(行為を理解する能力など)を加えている。要件をまた加えることで有罪にするものをどんどん絞っていく。厳格に判断されることで若年者を傷つけることになるのではないか」と指摘した。
このほか、Springの現代表理事・佐藤由紀子さんは、9月に4回にわたって改正を求めるツイッターデモを行なったことを報告。ハッシュタグには「不同意の性交はダメというのは当たり前のことなのに、なぜ日本ではそれが認められないのか」といった投稿が寄せられたと紹介し、現行刑法のもとで「自分の被害は犯罪と認められなかった」という声が非常に多いと話した。
上智大学生によるサークル「Speak Up Sophia」共同代表の山崎彩音さんはスウェーデンの刑法などで反映されている、性的なアプローチをした側が相手の同意を明確に確認する必要があるという意味の「Yes means Yes」を掲げ、「自分がOKと理解した言動が本当にOKとは限らないことを忘れてはなりません」と強調した。
審議会での議論は報道されることが少ない中、当事者・支援者団体は現在進行中の議論に世論の注目が集まることを期待している。
(『週刊金曜日』2022年10月14日号)