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経口中絶薬の服用調査で日本の利用者「満足」多数
岩崎眞美子・ライター|2022年10月21日6:59AM
「この薬は、身体に負担の大きい薬で、ほとんどのケースで激しい腹痛と共に2週間近い出血が続きます。大量出血などの副作用が報告されており、時として大量出血のために意識を失い、場合によっては命を落とすことさえもありえます」「絶対に服用しないでください」。これは的野ウィメンズクリニック横浜(神奈川)のHPで案内されている人工妊娠中絶薬に関する文面。「中絶薬」とネット検索すると上位に現れるサイトだ。
経口中絶薬は現在世界80カ国以上で承認され、WHO(世界保健機関)も「安全で効果的な中絶法」として推奨している初期中絶法だ。日本では、昨年厚生労働省に製造販売承認申請がされたもののいまだ認可されておらず、国内で治験以外で経口中絶薬を処方したことがある医師は限られている。にもかかわらず、前述のような不正確かつ脅しのような情報が医療機関から発信されていることは非常に問題だ。
9月28日、海外に拠点を置く「ウィメン・オン・ウェブ」(以下WoW)で重要な論文が発表された。WoWは、安全な中絶を求める世界中の人々に、経口中絶薬の送付と遠隔医療サポートサービスを行なう非営利団体だ。2005年に医師のレベッカ・ゴンパーツ氏が設立。以降、日本を含む世界各国の女性に支援を行なってきた。
今回発表された調査論文は、ゴンパーツ氏とWoWリサーチャーでオランダ在住の加藤雅枝さんの共同執筆によるもので、2021年にWoWを利用した日本在住の女性を対象としたアンケート調査を分析したものだ。21年にWoWに連絡をしてきた日本在住の女性は総計629人。そのうち263人へ薬の小包が発送された。アンケートに協力した62人のうち、46人が中絶薬をWoWのサポートを受けながら服用。そのうち出血について「予期していたより多かった」と回答したのは7人だった。
WoWでは中絶薬を送付した人すべてに、痛みや出血の程度や期間について詳細に情報を提供している。痛みや出血は通常の月経より重く、妊娠週数が進んでいるほど痛みも出血も増える傾向にあることなどだ。そのため利用者の多くが痛みや出血を想定内のものとして冷静に受け止めている。
出血が「予期していたより多かった」と答えた人も、通常の月経より出血が多いと感じた、という範疇の答えだ。妊娠週数が12週と進んでいた1人は、大量出血の兆候があり、WoWも病院に行くことを勧めたが、翌日には出血が徐々に減り安定したため、結局、病院には行かなかった。
自然流産とほぼ同じこと
加藤雅枝さんは「中絶薬を飲んだあと病院に行った9人のケースを見ても、痛みや出血が原因ではなく、中絶が成功しているかの確認が理由。病院側は自然流産として判断し、適切かつ親切な対応をしてくれたとアンケートに答えています」と説明する。
英語では、中絶も、流産も同じ「ABORTION」だ。経口中絶薬は、妊娠維持に必要なホルモンであるプロゲステロンの働きをブロックする薬(ミフェプリストン)と、子宮の入り口を開き、子宮収縮を促す薬(ミソプロストール)の2剤を服用し、子宮内容物を排出するもので、身体の症状としては自然流産とほぼ同様のことが起こっていると考えてよい。
「回答者の中には、確認のため病院に行き、自然流産後の処置として掻爬(子宮内容物をかきだす外科手術)を受けた人もいますが、欧米では、自然流産後に女性が手術かミソプロストール服用かを選択できるのが通常です」と加藤さん。
アンケートでは服薬後全員が妊娠症状がなくなったことを報告。月経も順調に戻ってきたと伝えている。「中絶薬を使っての中絶の満足度」は「とても満足」「満足」を合わせるとなんと100%だった。
なぜこれだけ多くの人がWoWに助けを求めるのか。高額な外科手術や母体保護法による「配偶者同意」、中絶に対する社会や医療事業者からの懲罰的な視線に阻まれ、安心して中絶を選択できない現状があるからだ。
「女性たちは自分の身体に何が起こっているかを理解しており、起こりうる痛みや出血も冷静に受け止めています。日本で経口中絶薬への偏見や誤情報が広がっているのはとても残念」と加藤さんは嘆く。偏見や誤解を払拭するためにも経口中絶薬の正しい理解は必須だ。
(『週刊金曜日』2022年10月21日号)
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