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「ふるさと」から「花は咲く」へ 〈編集委員コラム 風速計〉崔善愛

崔 善 愛(チェ ソンエ)|2022年10月23日7:00AM

 9月27日の国葬は自民党の考える日本像が表出され、戦慄をおぼえた。式典前、安倍晋三元首相の自宅前で遺骨を見送った「儀仗隊」。式典でも自衛隊員が遺骨を壇上に高々と置き、軍歌「国の鎮め」が流れた。この曲は「海ゆかば」と並べて演奏される自衛隊の定番曲らしい。まるで「軍を持てる国」日本を世界にアピールする絶好のチャンスと捉えたような式典だった。

 日本国憲法草案にかかわったベアテ・シロタ・ゴードン(1923~2012年)は講演でこう語っている。

 GHQのマッカーサー元帥が日本政府に対して民主主義的な憲法の起草を要請したところ、国務大臣だった松本烝治は2~3回憲法草案を提出したが、「いつでも『明治憲法と同じもの』が出てきた」という。ベアテは、「民主主義的な憲法草案を作ることが、どうも日本政府には無理だった」とも語った。

 国葬で流れた映像にも、違和感をおぼえた。それは、安倍氏がピアノで弾いた「花は咲く」だ。同じ曲であっても「誰が」それを弾くのかで違う意味を持つ。

 映像は、彼の生前の数々の姿と「花は咲く」の音が重ねられ、美しい物語がつくられていた。しかし現実は、放射能汚染の被害はいまも、そしてこれからも続き、日々命を削るような「廃炉作業」で汗を流す人たちを想うと、とてもじゃないが、あの惨事をうけてもなお再稼働を決めた元首相が弾く「花は咲く」には拒絶感しかなかった。

 あの演奏はどう収録されたのか。調べると、松下政経塾出身の実業家で教育者、小田全宏氏の自宅で昨年撮られたものだった。11年前の震災の年、安倍昭恵氏の紹介でふたりは出会う。小田氏のオフィシャルサイトによると、〈「『花は咲く』をピアノで弾いてもらったら、皆さん感動するだろう!」と閃いて、半年間ピアノをお教えした」〉。安倍氏も近畿大学卒業式のスピーチで「この曲はド素人が一生懸命弾いた方がいい」と友人に勧められたと話す。

 作曲家・林光さんは、日本の唱歌「ふるさと」の3節の歌詞「こころざしをはたして いつの日にか帰らん」は、戦争を美化し浄化しかねない危険を含んでいることを忘れてはならないと語っていた。

「ふるさと」から「花は咲く」へ、望郷の念を愛国心にかえる為政者には注意しなければ。

(『週刊金曜日』2022年10月14日号)

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