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大阪「コリア国際学園」放火事件 法廷で語られた“ヘイト”の正体
中村一成・ジャーナリスト|2022年10月25日7:00AM
さまざまなルーツを持つ生徒が通うインターナショナルスクール「コリア国際学園中等部・高等部」(大阪府茨木市)に侵入、段ボールに火をつけて床を焼損させたなど計3件の犯罪で建造物損壊などの罪に問われた無職、太刀川誠被告人(30歳)の第3回公判が10月13日、大阪地裁(梶川匡志裁判官)であった。この日の被告人質問で事件が在日韓国人、在日朝鮮人への差別的動機に基づくヘイトクライムであることが明確になった。
起訴状などによると太刀川被告人は今年3月、大阪府高槻市の辻元清美参議院議員の事務所の窓ガラスをハンマーで割って侵入。棚を物色した。また、4月にはコリア国際学園に忍び込み、1階広場にまとめていた段ボールに火をつけて逃げた。さらに5月には大阪市淀川区の創価学会施設の敷地に入り、ブロックを投げて窓ガラスを割った。いずれも犯行は深夜から未明で、人的な被害はなかった。
これまでの公判で太刀川被告人はすべての起訴内容を認めている。
弁護人の質問に対し、辻元事務所とコリア国際学園への侵入は、名簿などの個人情報を盗むため。いずれも未遂に終わったが、入手できれば「嫌がらせをしようと思っていた」と述べた。攻撃の理由は「立憲民主党は日本を滅亡に導くと思った」「在日韓国人、在日朝鮮人を野放しにすると日本人が危険にさらされてしまうと思った」「(創価学会は)日本を貶める組織だと思った」という。
ネット上のヘイト情報の数々が犯意を醸成した。被告人は昨年5月にツイッターをはじめ、以降、ツイッターやユーチューブにのめり込んだ。根拠のないデマや溢れるヘイトを浴びながら、一方で抱いた疑問は「(ヘイターたちは)なぜ行動に移さないのか」だった。
対象もネットで決めた。朝鮮学校を検索すると「家から近い場所にこの学校があって狙おうと思った」。攻撃対象の見境のなさを指摘されると、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという感じで、一緒だと思っていた」。同校が「何をしているかも知らなかった」と述べた。
裁判官の質問に黙り込む
万事がこの調子である。荒唐無稽の極みだが、結果は放火だった。しかも「何もできずに帰るのが嫌だった」から「嫌がらせ」で火を放ったのだ。捜査段階で被告人は「名簿を盗み、韓国人を襲うつもりだった」と供述したとも報じられている(弁護人は証拠採用に不同意)。入手すれば被告人はどんな「嫌がらせ」をしたのだろう。
法廷で被告人は「善悪の判断がつかなかった」「暴力に肯定的になりすぎていた」など「反省」の弁も口にしたが、あまりに空疎だった。「嫌がらせ」の目的を訊かれ、「日本を去って行くと思いました」とサラリと答えた被告人に対し梶川裁判官が「考え方が違う人に出て行ってくれと思うのですか? 『考え方が気に食わない。よく分からない情報に基づいて危害を加える人なんて日本にいては困りますから出て行ってください』と、あなたが言われたらどうするんですか」などと説諭のような質問を重ね、被告人がそのつど、黙り込む場面もあった。
ヘイトデモが顕在化して十数年が経つ。昨年7~8月には、名古屋の民団施設や京都府宇治市の「ウトロ地区」が放火され、同年12月には東大阪市の民団支部にハンマーが投げ込まれた。本稿執筆段階では、朝鮮民主主義人民共和国のミサイル発射を契機にした朝鮮学校への脅迫も相次ぐ。国が実効的な差別対策をとらない中で、ヘイト暴力は過激化している。
政府に適切なヘイト対策を求め続けている人権NGO「外国人人権法連絡会」の共同代表、丹羽雅雄弁護士はこの日の裁判を傍聴、記者会見した。「約1年でヘイトスピーチからヘイトクライムに転嫁した速さ」に衝撃を受けたと言う丹羽弁護士は、こう力説した。
「一歩進めばジェノサイドの段階。来年は関東大震災時の朝鮮人虐殺から100年だが、その歴史と構造が社会全体で教訓化されていない。(法曹も)国内法である人種差別撤廃条約の趣旨を理解し、それ自体を規範化しないといけない。これは司法の義務だ」
(『週刊金曜日』2022年10月21日号)
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