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「秘密回収指令文書」公開訴訟
連載”日の丸ヤミ金”奨学金 第12回
三宅勝久・ジャーナリスト|2022年10月29日7:00AM
良心的な奨学金制度の例
さて、前回に続いて、旧日本育英会の独立行政法人化(2004年)に伴い都道府県に移管された高校生向け学資貸与事業についての全国調査結果を報告したい。
まず事実誤認が発覚したので訂正をしておく。筆者は、香川県については公益財団法人香川育英会が貸与事業を行なっているとの認識でいたが、それは誤りだった。香川育英会の貸与事業は同会独自のもので、日本育英会からの移管分は香川県教育委員会が行なっていた。県教委によれば、繰り上げ一括請求(期限の利益喪失)の規程はなく、行なってもいないという。
したがって、47都道府県のうち府県が貸与事業を直接行なっている例は30、公益財団法人に補助金を出す形で行なっている例は17となる。
この17法人についてみると、貸与規程あるいは借用証書に一括請求条項を設けているのは16法人(いずれも公益財団法人)。根拠規程がなく一括請求もしていないのは山口県ひとづくり財団だけだ。
残る16法人中、「一括請求をいっさい行なっていない」と回答したのは青森県育英奨学会、秋田県育英会、岩手育英奨学会、栃木県育英会、山梨みどり奨学会、大阪府育英会、兵庫県高等学校教育振興会、島根県育英会の計8法人。
一括請求を行なっているが、年間数件程度と少ない例は岡山県育英会、東京都私学財団、北海道高等学校奨学会の計3法人だった。
そのほかの5法人(長崎県育英会、大分県奨学会、鹿児島県育英財団、福岡県教育文化奨学財団、沖縄県国際交流・人材育成財団)は年間数十件から数百件の繰り上げ一括請求を行なっていると回答した。とはいえ、債務者と連絡がつけば分割払いに応じ、延滞金もつけないなど、借り手の事情を考慮した柔軟な対応をとっているという。
九州・沖縄地方は比較的一括請求に積極的なようだ。しかし、容赦なく数百万円の一括請求を行ない、延滞金をつけ、払った金は延滞金から充当し、いったん一括請求すれば、よほど強く抗議しない限りは元に戻さないという支援機構に比べれば、きわめて良心的・常識的である。
なお、貸与規程には一括請求条項がないのに借用証書で「一括返還することを請求され、強制執行の手続きをとられても異議ありません」などと利用者に誓約させる例が散見された(栃木、岡山、長崎、福岡)。法的に問題はないのか気になるところだ。また、栃木県育英会は貸与規程の開示を拒否したうえで、取材に対する回答内容を「外部に公開されませんよう」と釘を刺すなど秘密主義を印象づけた。県の補助金を原資とした公的な学資貸付事業であることを考えると疑問がある。
話を戻す。東京私学財団の担当者は取材に対して次のように答えた。
「繰り上げ請求は、よほどのことがない限りやっていません。払えない人に強く請求しても、費用がかかるばかりです。去年は1件でした。期限の利益をいったん喪失させても、連絡がつけば分割払いに応じています。奨学金制度は経済的に厳しい人を対象にした事業です。貸金業みたいなことをやっても意味がない。延滞金も取っていません。元金を払ってもらえばいいという考えです」
こうした古き良き「奨学金」貸与のあり方が存続できる背景には、高校の学費無償化政策と給付金制度の充実がある。
(『週刊金曜日』2022年9月9日号)