政令無視? 支援機構の“暴論”
連載 “日の丸ヤミ金” 奨学金 第13回
三宅勝久・ジャーナリスト|2022年10月30日7:00AM
日本育英会時代からの例
よくある一括請求問題というのは日本学生支援機構法施行令5条5項の濫用だ。「支払能力があるにもかかわらず」著しく延滞した場合にのみ期限の利益を喪失させて請求できる旨を同項で定めているのに、これを無視して支払能力不問で貸しはがしをする。
ところがAさんの場合は少し様子が違った。借り入れた時期が、支援機構が独立行政法人になる(2004年)前の日本育英会時代で、回収にあたっては同育英会の法令や規程が使われている。期限の利益を喪失させた法的根拠の説明も異なり、訴状にはこうある。
「日本育英会奨学規程第20条第3項により、割賦金の返還を怠った者に対しては、原告が指定する期日までに返還期日未到来分を含む返還未済額の全部を一括して返還させることができる定めであるところ、(中略)返還期日未到来分元本金2,106,000円を令和4年1月31日を期限として返還すべきことを請求したが、被告はこれを履行しないので……」
日本育英会奨学規程第20条第3項に基づく一括請求だというのだ。
そこで件の奨学規程を見ると、
〈奨学生であつた者(略)が、割賦金の返還を怠つたと認められるときは、前2項※の規定にかかわらず、その者に対して請求し、本会の指定する日までに返還未済額の全部を返還させることができる〉(※筆者注 返還方法は年賦、半年賦、月賦またはその他1年以内の割賦の方法によるとの規定)
とあり、延滞した場合は無条件に一括で請求できると読めなくもない。なお奨学規程は日本育英会の内部規程で、同育英会業務方法書に基づいて作成されている。業務方法書は、日本育英会法で作成が義務づけられ、文科大臣の認可を得た文書だ。その14条4項に、奨学規程20条3項と同じ条文がある。
この奨学規程、つまり業務方法書に基づき延滞者には全額請求できるのだと支援機構は言う。だがAさんは別の規程の存在に気がついた。日本育英会法施行令だ。施行令の6条3項は「返還の期限等」と題して次のように定めている。
〈学資金の貸与を受けた者が、支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠つたと認められるときは、前二項の規定にかかわらず、その者は、育英会の請求に基づき、その指定する日までに返還未済額の全部を返還しなければならない〉
日本学生支援機構法施行令5条5項と同じ内容である。一括請求の要件に「支払能力」を掲げている。支払能力のない者には、延滞したとしても一括請求できない。