「質問権」行使の岸田政権は統一教会「解散請求」をできるのか?
本田雅和・編集部|2022年10月31日7:00AM
統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の不法・違法行為や言論妨害による被害の拡大を受け、岸田文雄首相は10月17日、宗教法人法に基づく「質問権」の行使を表明。19日には教団の解散命令請求要件として、従来は否定的だった「民法の不法行為」も「要件になりうる」との見解を初めて示し、迷走しつつも「統一教会の解散請求」に向けてようやく動きだした。
宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があれば、所轄庁などの請求で裁判所が宗教法人の解散を命じることができると規定。「自民党と統一教会の癒着」を批判する世論の反発や野党の追及を受けて岸田政権は、質問権を含む政府調査の年内実施を17日の国会質疑で約束した。
が、全国霊感商法対策弁護士連絡会の郷路征記弁護士らが即日、「既に解散請求の要件は満たされている」として「速やかな請求」を要求。今さらの質問権行使は「徒に時間を費消し、その間に被害が拡大する懸念も否定できない」とした。実際、信徒の両親から「恐怖を伴う洗脳」を受けて精神的に追い込まれ、経済的にも搾取されてきた小川さゆりさん(仮名・26歳)が7日、記者会見で被害を訴えようとしていた直前、会見場の外国特派員協会に教団側から「中止」を求めるファクスが送付された。「会見を敢行し、小川氏による事実無根の発言によって当法人の名誉が毀損された場合、貴記者クラブに対する法的責任追及も視野に入れる」との脅しとも言論妨害ともとれる書面だった。
さらに岸田首相は、17日の国会質疑で質問権行使の根拠として「教団の組織的不法行為」や「不法行為をした信者に対する指揮監督の使用者責任」を認めた民事の確定判決をあげながら、解散請求については「刑法等の実定法規の禁止規範または命令規範に違反する」という、幹部が殺人罪などに問われたオウム真理教への解散命令の高裁決定文面を根拠に、従来の政府解釈を踏襲する答弁をした。
そもそもこの下りの解釈は「刑法等」の中に民法なども含むというのが適切で、その決定文前段に、宗教法人が「犯罪」以外でも「反道徳的・反社会的存在に化することがありうる」から「これを防止するための措置」と立法趣旨を述べていることからも明らかだ。
また、所轄庁の文化庁自身が出している宗教法人法解釈の手引書『宗教法人の事務』(2016年2訂版)には「法人の管理運営」は「常に法令、規則及び規程に従わねばならない」とし、その「法令」とは「宗教法人法以外に民事法、刑事法、税法、各種の手続法等」と明確に列挙され、「法令違反」は「解散命令の対象となる」と規定されていた。
迷走する岸田首相は従来方針踏襲発言の翌19日の国会で、法解釈を180度修正した冒頭の発言をした。が、年内はまず政府調査などが入るため、解散請求は早くても年明けとなろう。質問権は関連団体には及ばず、立ち入り調査にも教団側の同意が必要だ。質問権行使も今回が初めての文化庁担当課の職員はわずか8人。国会質疑で「できるか」と問われた永岡桂子文部科学相は「がんばります」と根性論しか答えていない。
教団が会見参加阻止
教団側は20日に開いた記者会見で、勅使河原秀行・教会改革推進本部長が質問権行使などには「誠実に対応する」と述べ、これまでの対応を一部謝罪した。が、従来通り会見参加は大手メディアに限り、フリーランス記者らを排除。教団側は「自分たちに取材せずに一方的な言い分ばかりを載せている」との趣旨でメディア全般を批判していることもあり、本誌編集部や筆者は書面でも口頭でも取材申し込みをしてきたが、拒否され続けてきた。この日も屈強な男たち4人が、会見場に入ろうとする筆者を身体をぶつけて阻んだ。「言っていることとやっていることがまったく違う」教団と言えよう。
(『週刊金曜日』2022年10月28日号)