伊藤詩織さんが杉田水脈議員に控訴審で逆転勝訴
小川たまか・ライター|2022年11月1日7:00AM
ジャーナリストの伊藤詩織さんが自民党の杉田水脈議員(現・総務政務官)にツイッター上での「いいね」で名誉感情を侵害されたとして、220万円の損害賠償を求めた控訴審の判決が10月20日に東京高裁であった。石井浩裁判長は一審判決を変更し、杉田議員に55万円の支払いを命じた。 杉田議員は2018年6月から7月にかけて、伊藤さんや伊藤さんを擁護するツイートをしたアカウントを誹謗中傷する内容の25件のツイートに「いいね」を押した。「いいね」したツイートは「ニコニコ顔で自分のレイプ体験語るヤツが被害者って変だと思わないかなぁ!?」「伊藤さんが嘘をついて日本を貶めている事を責めているだけ」など。
今年3月の一審判決で東京地裁の武藤貴明裁判長は「25件は少なくはないが、執拗に繰り返されたとまでは言えない」「原告に対する加害の意図を持って行われたと認めるべき事情も見当たらない」といった理由から訴えを退けた。
高裁判決では、18年3月に杉田議員がインターネット番組に出演して伊藤さんを揶揄した事実や、同年6月に放送されたイギリス・BBCの番組内で「彼女の場合は明らかに女としても落ち度がありますよね」などと発言したことなどを挙げ、侮辱的な内容のツイートに好意的・肯定的な感情を示すためや、積極的に伊藤さんの名誉感情を害する意図の下に「いいね」行為を行なったと認めた。伊藤さんらを中傷する多数のツイートに「いいね」する一方で、杉田議員に批判的なツイートには「いいね」していなかったことや、杉田議員が当時約11万人のフォロワーがいる国会議員であったことの影響力も判断理由となった。
勝訴判決を受け、裁判所前での囲み取材と司法記者クラブでの記者会見、夜にはオンライン上で支援者に向けた集会が行なわれた。
伊藤さんの代理人、佃克彦弁護士は「加害の意図を持って『いいね』を行なったというのは単なる故意よりも情状は悪い。そこまできちんと認定してくれて、今回の判決は極めて素晴らしかったと思っています」と判決を喜んだ。
同じく代理人の西廣陽子弁護士は「血の通った判決内容だと感じました」と述べ、その理由を「これまでの杉田氏の詩織さんに対する揶揄などの言動を踏まえた上で、加害する意図があると判断されたこと。さらに詩織さんを擁護する人に対する侮辱に対して『いいね』を押すことも、詩織さんに対する名誉感情を侵害するものだと評価され、踏み込んだ判決だと思っている」と説明した。
詩織さん「法に守られた」
伊藤さんは「一審が思わしくないものでしたので期待していませんでしたが、今回の判決を見て、法に守られたのだなとエンパワーされました」と笑顔を見せ、「名誉感情侵害というと言葉が硬くてピンとこないところがあるんですが(判決中の)『害する意図の下に』という箇所を読んだ時に、気持ちが伝わったんだなと思いました。この2年間、オンラインの誹謗中傷について、たくさんの方が声をあげたり、風向きが変わったんだろうなと感じられる結果でした」と話した。
支援者からの「してみたいことや行ってみたい場所はありますか?」という質問には「スペインで巡礼をしてみたい。ここ数年は裁判にかかりっきりだったので3カ月ぐらい歩いて、自分と向き合う時間がほしい」と話していた。
「いいね」による不法行為を認めた判決は初めてとみられる。一方で佃弁護士は「この判決が先例として広まるのは本意ではない。特定の事例における判断であり、人の悪口に『いいね』を押せば損害賠償と言っている判決ではない」とも語り、判決が「『いいね』は名誉侵害になる」と単純に要約されることに懸念を示した。
一部では「いいね」を不法行為に問うことは表現の自由の萎縮につながるのではないかという声もある。伊藤さんは「表現の自由という一言で言葉の暴力を許してしまうことを考えるきっかけとなる判決だったのではないかと思います」とも語った。
(『週刊金曜日』2022年10月28日号)