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朝鮮戦争反対デモ弾圧「吹田事件」の裁判資料を博物館に寄贈

西村秀樹・ジャーナリスト|2022年11月3日7:00AM


 今からちょうど70年前の1952年6月、朝鮮戦争(50~53年)に反対する市民ら約900人が、大阪府吹田市にあった国鉄操車場の構内などでデモ行進し、大勢の参加者が逮捕・起訴される事件があった。「吹田事件」と呼ばれるこの事件で、被告人の主任弁護人を担当した弁護士がこのほど、同裁判の関連資料374点を吹田市立博物館に寄贈。10月16日に同館で講演した。

 その石川元也弁護士は今年91歳。当日は杖を右手にゆっくり登壇し「こっちの方が慣れているから」と、90分間ずっと立ったまま、裁判のディテールについて証言した。演壇の横には寄贈された裁判資料の一部が展示され、聴衆は興味深げに手にとっていた。

吹田事件の裁判資料を手に講演する石川元也弁護士。(撮影/西村秀樹)

 吹田事件は同年5月に東京で起きた「血のメーデー事件」、7月に名古屋で起きた「大須事件」と並ぶ「三大騒擾事件」の一つだ。当時はサンフランシスコ講和条約発効(52年4月)で日本が主権を回復して間もない時期にあたる。

 東京と名古屋では警察官がデモ隊に発砲し参加者に死者が出たが、6月24~25日に当時東洋一の規模を誇った国鉄吹田操車場(84年廃止。現JR吹田貨物ターミナル駅の所在地)の構内で学生や労働者、市民ら約900人が行なったデモでも学生4人が太ももに銃弾を受け重傷。警察・検察は当時の刑法にあった「騒擾罪」の適用を決定し、デモ参加者約300人を逮捕のうえ、うち111人を起訴した。

 騒擾罪はデモ参加者なら誰でも逮捕することを可能とし、自由民権運動など大衆運動への弾圧に利用されてきた犯罪類型だ(現刑法では改正されて「騒乱罪」に)。

 なぜ朝鮮戦争に反対する人々が吹田操車場でデモ行進したのか。それは日本、特に関西が朝鮮戦争の兵站基地だったからだ。アジア・太平洋戦争当時、アジア最大規模の武器製造工場は大阪市内の大阪城近くにある大阪砲兵工廠であり、その北東の枚方市に帝国陸海軍の砲弾の7割を製造する枚方分工場(大阪陸軍造兵廠枚方製造所)が所在した。

 敗戦後、静かだった日本の武器製造は朝鮮戦争で復活し、大阪府下の町工場で米軍用武器の部品が作られた。これら武器弾薬は国鉄貨物で吹田操車場へと集約された後に神戸港に運ばれ、朝鮮戦争の戦場に船出された。

「国鉄の軍需列車を一時間止めれば、祖国の同胞千人の命が助かる」

 これは吹田事件に参加した在日朝鮮人の詩人、金時鐘の証言である。吹田事件の騒擾罪で起訴された被告人のうち在日朝鮮人は47人と約半数だった。吹田操車場が対象になったのは、そうした朝鮮戦争との密接な関係が背景にある。

主任弁護人は後に市長に

 講演で石川弁護士は裁判の裏話を披露した。検察側の内部総括を東京・神田の古本街で入手したと言い「相手の手の内がよく判って、弁護団で対応を考えた」と暴露。その資料『吹田・枚方事件について(検察研究特別資料・第13号)』(法務研修所、54年)を手に取って「今では国会図書館をはじめ各地の図書館で読むことができる」と聴衆の笑いを誘った。

 吹田事件は20年間の裁判の結果、騒擾罪については日本国憲法21条「集会、結社の自由」を根拠として72年3月に最高裁が検察側の上告を棄却し、無罪が確定した。

 石川弁護士が吹田事件の弁護人を担当したのは57年からだ。初代の主任弁護人、山本治雄弁護士は後に吹田市長となった。同市民は反戦デモの被告を擁護する主任弁護人だった人物を市長に選んだ。

 講演会では現場近くに住む、当時15歳だったという高齢者が「デモ隊を追いかけてきた警官が真っ青な顔をして(トイレを借りに)やってきた。警官がしゃがんでいる間、警官がベルトから外した拳銃を私はずっと触っていました。大きな拳銃でした」と証言し、吹田事件が今なおこの地で生きていることを実感させた。

 吹田市立博物館は裁判資料の目録を作成中。将来閲覧を検討するという。来年2023年は朝鮮戦争の休戦協定から70年。改めて日本と朝鮮戦争を考える年になる。

(『週刊金曜日』2022年10月28日号)

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