戦前の朝鮮人患者を描く映像作品を東京都が上映拒否
臺宏士・ライター|2022年11月6日7:00AM
東京都の人権行政の拠点となっている「都人権プラザ」(港区)で開催中の、精神障害をテーマにした都事業の企画展で、美術作家の飯山由貴氏が同展に合わせて制作した映像作品(戦前の東京の精神病院に入院した朝鮮人患者2人の診療記録を基に当時の精神医療の実態を描いた内容)を上映しようとしたところ、都側が「作品の中に暴力的な表現(言葉)がある」などとして難色を示し、上映を許可しなかったことがわかった。飯山氏は指摘を受けた部分の削除を申し出たが、認められなかった。10月28日、飯山氏や出演者らが東京・霞が関の厚生労働省で記者会見して明らかにした。
都人権部側が上映を拒んだのは『In-Mates』(26分46秒、2021年)。飯山氏が精神障害を患う妹とのかかわりを描いた映像作品を上映する企画展の付帯事業として、上映と出演者によるトークイベントが企画された。診療記録には関東大震災の後に起こった朝鮮人虐殺事件の記述もあり、評論家・小田原のどか氏は「朝鮮人患者の実際のやりとりに基づき、ラッパー・詩人で在日コリアン2・5世であるFUNIが、言葉とパフォーマンスによって彼らの葛藤を現代にあらわそうと試みる姿が記録されている。戦前から続く日本における障害や民族の問題に着目した重要な作品」と評価する。
飯山氏によると、都人権部の担当者は5月、都人権プラザを運営する都人権啓発センターの担当者あてメールの中で、「関東大震災での朝鮮人大虐殺について、インタビュー内で(外村大・東京大学教授が)『日本人が朝鮮人を殺したのは事実』と言っています。これに対して都ではこの歴史認識について言及をしていません」
「(小池百合子知事は今年9月も朝鮮人追悼式典に追悼文を送らず)都知事がこうした立場をとっているにも関わらず、朝鮮人虐殺を『事実』と発言する動画を使用する事に懸念がある」
「動画全体を視聴した感想ですが、『在日朝鮮人は日本で生きづらい』という面が強調されており、それが歴史感、民族の問題、日本の問題などと連想してしまうところがあります。参加者がこういった点について嫌悪感を抱かないような配慮が必要かと思います」
――など3点の懸念を示した。1週間後、飯山氏は上映を不可とする連絡を同センターから受けた際にはその説明はなかった、という。
「行政による差別扇動だ」
飯山氏は会見で「都人権部から作品へ検閲行為があった。『検閲』は在日コリアンへのレイシズムに基づくきわめて悪質なもの」と批判。「この問題は都知事が『小池百合子都知事』でなければ起きなかった。(知事は)自らの行動が行政職員による偏見と差別行動の扇動になっていることを自覚し、本事件が発生するに至った経緯をあらためて調査し、公に説明してほしい」と上映機会などを求めた。
外村教授は「全く何の罪もない朝鮮人が迫害を受け、虐殺されたことはよく知られた史実。都の刊行する『東京百年史』にも書かれている。(都や人権啓発センターの職員らの間では)この史実自体を語ることが問題になっているように思われる」と指摘した。
中村雅行・都人権啓発センター事務局長は取材に対し、都人権部からのメールの内容を認めたうえで「企画は都と相談して決める。(センターからの)案について担当者からそのような懸念が示されただけ」とし、「(都人権部との)管理職同士では在日コリアンの方々の生き方についての葛藤や、人間模様に焦点を当てた内容で精神障害がどのようなものかを都民に深めてもらうという企画の目的から離れた内容であり、カットしても暴力的な表現を含んだ作品であることに変わりないことから上映を認めないことにした。(飯山氏も作品を)公開しないことを了解していただいたと考えている」と述べた。
飯山氏らは今後、ネットでの署名活動や、都知事や都人権部への要望書の提出、都議会への請願・陳情などを行なっていくという。
(『週刊金曜日』2022年11月4日号)